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自身の経験や実績も踏まえ、マーケティング論を語っていただきます。医薬品以外にも幅を広げ、さまざまな業界のマーケティング担当者さまにもインタビュー予定。

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2018年 スタートアップ スペシャル インタビュー
バイオ医薬品でも日本のモノづくりの高さを示したい

日本バイオテクノファーマ株式会社
代表取締役社長CEO 篠原 直樹さん

今年は新たなバイオシミラーが続々と登場することが予想されており、バイオシミラー市場は本格的に拡大しようとしています。そこで今回は、日本発のバイオシミラーの開発を目指して2016年8月に創薬ベンチャーを立ち上げた日本バイオテクノファーマの篠原直樹社長に話をうかがいました。

 

製品を通して健康寿命と社会保障費削減に貢献する

――最初に、創業したきっかけから教えてください。

1801_pro_photo1篠原 私は28年近くずっと外資系の製薬会社を通して医薬品業界と携わってきました。長い会社勤めで感じていたのは、日本では、特に外資系にいると、自分がこうあるべきだという考えを実行するのが難しいということです。地域によっても違うのでしょうが、本国の方針に沿わなければいけないという狭間で、自分の考え方が通らないことも少なくありませんでした。そのような環境に身を置いてきた中で、自分が一番やらなければならないことをできているのかという疑問を感じていた時期に、時同じくして製薬業界では、社会的な信用が下がっていた。製薬会社は医療貢献や患者の為にという想いを持ちつつも、組織の中に身を置くと、医療の将来に対して一端を担っているという意識が薄らいでくる事もあるのではと思います。私自身、マーケティングに従事していましたが、果たしてこの任務が日本の社会にとっていいのか、医療現場に貢献しているのか、患者の役に立っているのか微妙に分からなくなるときもありました。
そんな時に、ある科学者から、「日本でバイオのモノづくりというのを考えないのか」と言われました。日本では抗体医薬の開発が遅れていて、一方、韓国などでは、いち早く目を付けていて、政府主導で製造技術の習得や施設の建設に取り組んでいたのは知っていました。日本は製造業というモノづくりのところでは世界的な信用度が高く、かつ医療大国です。バイオ医薬品の分野では遅れているなという印象を漠然とは持っていました。やはり外資系だと本国の方針もありますし、日本だけ、もしくは、日本とアジアだけでモノづくりをしていくという発想にはならない。そうやっていろいろ話をしている時に、その科学者から「じゃあ君起業したらどうなの?」という話になり、それで立ち上げたというのが経緯です。日本で売上上位10位に入る製品というのはほとんど外資企業の製品で、しかもバイオ医薬品。その状況の中で、医療大国としての日本発のモノづくりが復活するきっかけになればいいという想いもありました。

――実際に創業するにあたり、資金調達など苦労したことはありますか。

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篠原 起業するとなった時に、会社員時代にお世話になっていた大学の先生方が支援してくれました。自分たちは医療に直接かかわっているが、実際に行動を起こして会社をつくってやっていくという立場にはなれないと。だから間接的にも夢を託せれば、というお言葉もいただき、多くの先生方がバックアップしてくれました。

――企業からのバックアップはなかったのですか。

篠原 企業もベンチャーキャピタルも一切入っていないです。

――改めて、企業理念と事業内容についてお聞かせください。

篠原 企業に勤めていた時代から、自分たちの子供の世代になった時に、果たして日本の社会保障制度はどうなってしまうのかというぼんやりとした不安がありました。医療費の削減に少しでも貢献する為にバイオシミラーの開発をしたいと考えています。
一方で、一滴の血液から、アルツハイマー病やパーキンソン病の発症を予測する体外診断検査キットを開発中です。身体が元気でも認知症になってしまうという人がいるなかで、検査キットによって認知症の予防行動ができるようになれば、健康寿命を伸ばすことができますし、それはまた社会保障費の軽減にもつながるはずです。もう一つ、血中の薬物濃度やタンパク質濃度の測定キットも開発しており、2018年に申請予定です。こちらは医療従事者がその場で患者の動態を知り、迅速な処方薬剤の決定に役立ちます。

 

バイオベターは日本で商業化製造を目指す

――現在の開発品目および開発計画について教えていただけますか。

篠原 バイオシミラーの開発中の5品目はすべて原薬開発を終了しており、エタネルセプトのバイオシミラーについては非臨床同等性試験を終了し、その試験結果を近く公表する予定です。そのほか、インフリキマブ、アダリムマブのバイオシミラーについても、同様に進めています。

――製造設備のことをお伺いしたいのですが、世界的にもバイオ医薬品の大規模な製造施設は限られる中で、韓国などは国策として製造施設の充実を進めてきています。一方、日本は国内の製造設備はキャパも実績もないことから、製造は海外に委託せざるを得ないのが実情。製造場所はどう確保されているのですか。

篠原 バイオシミラーの開発戦略としては、早く発売することが何より重要だと思うんですね。そうなると日本国内でやるのはやや難しいかとも思います。施設も技術力もまだこれからという印象は持っています。ですから経験値の高い海外のCMOに委託することも視野に入れています。臨床試験まで終わっていて、最終的にでないということもバイオの世界では起こり得るので。経験があることは重要な要素かとは思います。

――もうすでにバイオシミラーが出てしまっている疾患領域で、後追いでバイオシミラーを出すのならば、メイドインジャパン、日本のCMOを使うことで差別化を図ることも、戦略として面白いと思うのですが。

1801_pro_photo3篠原 そうすると開発に時間を要してしまう。確かに一理あるなと思うのは、時間を掛けたとしても本当に良いものをつくることは大事なことで、今いろいろ開発していますが、発売しても売れなかったら意味がないし、私自身、メイドインジャパンへのこだわりは持っています。例えばアジアの一部ではいわゆるバイオコピーみたいなのが出回っているという話も聞きますし、流通管理を含めて日本の当局の信頼性はFDAとならびすごく高いということも一つの事実としてあるのかなと思います。実は国内のCMO数社からもお誘いをいただいており、いろいろな施設も見学しました。確かに設備はすごいと思います。あとは経験と技術者の確保を担保出来ればGOだと思います。
ただ、当社はバイオベターの製品もパイプラインにあります。これは先発品のエタネルセプトと有効性は同じながら特異的副作用の軽減に成功した世界初のバイオ医薬品であり、時間を掛けてもいいので日本で商業化までの製造してみたいと思っています。ですから、二つのスキームがあって、バイオシミラーはやっぱり早く出さないと意味がありませんので、少しでも失敗のリスクの低いところで作るという考えです。しかもそのコストも、今は昔と比べて何百億円もかかるような時代ではないので、そういう意味では作りやすいのかなとは思うのです。一方で、日本の産業育成、バイオをつくれる基盤をつくるという意味では、バイオベターを国内の設備投資したところできちんとつくり上げていって、将来的には国内でバイオの製品を一貫してつくれるようにすることは、日本の医療産業の将来に貢献することになるはずです。

――マスターセルについては、サンフランシスコに自社のラボを持っていますね。

篠原 はい。実際に作る作らないは決めていませんが、自社でつくれます。過去に日本の国内企業も海外からマスターセルを導入して、価値のないようなものを掴まされたり、その後、交渉で足元を見られたりした苦い経験があるので、モノをつくる、マスターセルまではちゃんと自社でできるようにはしてあります。

――販売のところは、どういう計画でいますか。

篠原 バイオシミラーについては、国内の新薬メーカーにライセンスアウトするのが良いと考えています。やはり、病院の先生ときちんと話のできる体制下でないとバイオシミラーは難しいでしょうし、各領域の専門の先生方とすごくコンタクトが強いというメーカーが売るのがベストだと思っています。

――想定している市場は日本だけでしょうか。

篠原 日本で商業化の製造まで行う製品に関しては、日本発での海外展開にこだわっていきたい。日本からアジアへのバイオ医薬品導出は日本のものづくり復活の礎になり、私の夢でもあります。

 

国内で一貫製造できる基盤整備も必要

――アルツハイマー病の検査キットも、アルツハイマー病の根本治療薬がなく、進行抑制しかできない治療の現状において、早期の発見には大きな意義がありますね。

篠原 例えば40代ぐらいのところで検査すると、何年後かの発症の可能性がわかります。普段の予防管理でアルツハイマーのリスクは減らせると思いますし、いまの治療薬も予防的に投与できる日が来るかもしれないですしね。

――保険適用を目指しているのでしょうか。

篠原 難しいですね。保険適用を取ってしまうことで非常に使いやすくなって健康診断に普通に使えるようになるというのはありますが、保険適用を目指すと発売がどんどん遅れてしまうということもあります。保険適用を取ったために3年発売が遅れるという話になるのか、それとも出来上がった時点でいち早く市場に出して多くの人に使ってもらう形が良いのか。アルツハイマーや認知症治療薬の予防的な使い方が出てきたらいいですね。

――最後に、バイオシミラーの発売にかける思い、これからの市場認識をお聞かせください。

1801_pro_photo4篠原 一番大きな問題というのは日本国内でバイオ製品を多くつくれるようになれるかということ。前職では血漿分画製剤の会社にいたのですが、血液製剤を扱っていると、日本にない製品があるんですね。しかも致死性の高い疾患に多い。だから、欠品してしまったら患者が死んでしまう。そういうことが将来的にバイオ系の製品にもあり得ることで、医療ニーズの高いバイオ製品こそ日本国内で作れるような状況にしておくというのがまず問題意識として強くあります。その上で、バイオシミラーの場合は、高くてその薬には手が出せないという状況を回避するための役割を担っています。いまの社会保障制度でも、例えば2カ月に1回、8万円程度を窓口で払うことが困難で投与しない患者は少なくありません。単純にデータ蓄積が少ないなどの問題でバイオシミラーは投与できないでは片づけられない部分があります。だからバイオシミラーの問題は国や製薬会社、いろんな協力体制で環境整備を考えることが大切で、逆に言えば、その方針をはっきりさせてほしい。それによって開発のスキームも変わってくるからです。例えば、メーカー自ら薬価を引き下げることができるのであれば、私たちは既存のバイオシミラーの算定薬価よりももっと安い価格で戦うことを考えます。少しでも医療費削減に心がけたい。
日本で安く売りますと言っても結局利益を海外に持っていかれているという状況。そういう意味では、日本国内の問題を整理してはっきりとした方針を打ち出したうえで、それに合わせて作り込んでいくということが一番好ましいのかなと思うんです。そうすると国内雇用も創出できますし、バイオはやはり金額も大きいです。バイオシミラーを推進しましょうの具体的な推進プランとして、環境の整備と強い方針を願います。

――そのためにも、日本のナショナルフラッグの製造施設ができたらいいですね。

篠原 やはりチームジャパンで作れる体制は大事ですよね。
それが、日本のあるべき姿のけん引になると信じています。

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