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製薬企業にも影響を及ぼす地域医療連携推進法人制度

はじめに

平成27年国勢調査の人口等基本集計結果(2016年10月公表)によると、65歳以上人口は総人口の26.6%であり、5年前の23.0%から大幅に上昇しました。高齢化への対応は日本社会の大きな課題となっています。

その課題のひとつが医療提供体制の整備です。医療・介護は高齢化が進むほど需要が高まるため、団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)になる2025年までに体制整備の道筋をつける必要があります。

この2025年に向けて病床の機能分化・連携を進めるために、2025年の医療需要と病床の必要量を医療機能ごとに推計し定めるものが、地域医療構想です(2016/8/1「地域医療構想と製薬会社の活動のポイント」参照)。現在、各都道府県は地域医療構想を策定しており、19の都府県で既に策定済みとなっています(2016年7月31日現在)。地域医療構想で求められる改革に、各医療機関がどのように対応していくのかも大きな課題となるのですが、設定された病床の必要数を達成するためのひとつの選択肢として「地域医療連携推進法人制度」が創設されました。

今回は、製薬企業にも影響を及ぼすと考えられる、この地域医療連携推進法人制度について解説します。

 

地域医療連携推進法人制度とは

地域医療連携推進法人制度は、医療機関相互の機能分担および業務連携を推進することを目的に、2015年9月に公布された医療法の一部を改正する法律(改正医療法)により創設され、2017年4月から施行されることになっています。

地域医療連携推進法人とはいわゆるホールディングカンパニーのようなもので、医療法人や社会福祉法人などいくつかの非営利法人がネットワーク化して新たに地域医療連携推進法人を設立し、複数の医療機関や介護施設を統括して一体的な経営を可能とする制度です。ただし、一般企業にみられる、親会社がグループ会社を支配するような構造の組織ではありません。

地域医療連携推進法人の業務内容は、参加法人がそれぞれ「社員」として参画する「社員総会」で統一的な医療連携推進方針を決定し、診療科の再編や医薬品の共同購入などといった医療連携推進事業等の実施、参加法人の統括を行うこととされています。また、この社員総会に対し意見を具申する、地域関係者で構成された「地域医療連携推進評議会」を組織することも求められています(図1参照)。

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地域医療連携推進法人制度のポイントは

1. 最大のメリットは医療資源の有効活用
これからの地域医療では、今までのような医療機関同士の“競争”ではなく、地域包括ケアシステムの構築や医療機能の分化による地域に合った医療提供体制の確立など、“協調”が求められます。この地域医療連携推進法人創設の最大のメリットは、医療資源の有効活用にあると考えられます。地域医療連携推進法人の設立によって、それぞれの地域に合った柔軟な対応も可能となり、法人の垣根を越えての病床数の融通、医師・看護師等の配置換えや共同研修の実施、医療機器等の共同利用などが実現すると考えられます。

2. 都道府県知事の権限拡大
地域医療連携推進法人の創設にあたっての認定はもとより、地域医療構想の推進に必要となる病院間での病床の融通について、また医療法人の分割や社会医療法人の認定に関することなどにも都道府県知事の許可が必要であり、その権限が強化されていると言えます。

3. 地域社会からの監視機能が働く
地域医療連携推進法人制度では、地域のニーズ等を適切に反映させるために、都道府県知事の認可等が必要な案件については、都道府県の諮問機関である「都道府県医療審議会」による意見具申が求められています。さらに、前述のように地域医療連携推進評議会を組織し、法人に対して意見を具申することも求められています(図1参照)。また、外部監査等の実施による透明性の確保も義務付けられており、地域社会からの監視機能が働くことになります。

 

地域医療連携推進法人制度の施行による影響

1. 病床機能分化・再編の推進による患者の受診行動の変化
そもそも、この地域医療連携推進法人制度は、地域医療構想に則り、医療法人がその地域で求められる病床機能・病床数を満たすよう移行していきやすくするための制度ですから、医療機関においても自院の強みを生かした“選択と集中”が進むと考えられます。そのため、患者の受診行動の変化が起こることが考えられます。

何らかの症状が現れたとき、患者はこれまではまず近くの開業医を受診し、手術などが必要ならば主に二次医療圏の病院へ、それでも治療が難しい場合は三次医療圏にある大学病院などの大病院に紹介されてきました。しかし、今後はプライマリケア医がクリニック・病院などの専門の医師へ紹介するようになっていくと考えられます。図2のように、一次医療圏~二次医療圏~三次医療圏という垂直移動から、水平移動に患者の受診行動が変化していくと想定されます。
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2.製薬企業などへの影響は
前述した地域医療連携推進法人の業務内容にあるように、医薬品の共同購入、医療機器等の共同利用が進むものと考えられます。例えば、価格交渉を有利に進めてコストを削減するため、医薬品の一括購入や、そのための使用薬剤の統一化の実施などが考えられます。統一品目に自社製品が選ばれればシェア拡大に繋がりますが、そうでなければ売り上げを失うことになります。

 

地域医療連携推進法人設立に向けた検討の進捗状況

地域医療連携推進法人制度が施行されるのは2017年4月の予定ですが、現在各地で設立に向けた検討が行われています。厚生労働省によると、北は北海道のカレスサッポロ法人から、南は鹿児島市の相良病院・新村病院まで、全国30か所以上で設立に向けた検討が行われているということです*。

その一例として、岡山では6つの病院(岡山大学病院、岡山市民病院、岡山日赤病院、岡山労災病院、岡山済生会病院、国立病院機構岡山医療センター)による「岡山大学メディカルセンター構想」が持ち上がっています(図3参照)。

* 医研シンポジウム2016「地域医療構想をめぐって:地域医療・その実情と課題」にて発表
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地域医療連携推進法人設立により、地域での医療提供体制の変化が予測できます。どこの医療機関がどのような医療機関と連携し、またどのような強みを持った医療機関となっていくのか、製薬企業も注視しておく必要があります。

(編集:サンテ医業コンサル 田中豊章)

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