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これからの調剤薬局が担う役割 ―「健康サポート薬局」を中心に

医療に関わる制度改革や規制改革が進展しつつある現在、調剤薬局も大きな変化に直面しています。今回は、これからの調剤薬局のビジョンと、担うべき役割について詳しく解説します。

医療に関わる改革と調剤薬局の現状

1974年に始まった医薬分業の進展と歩みを同じくするように、医療費・調剤医療費は増加してきています(図1)。

そもそも医薬分業は、医療費の削減のみならず、重複投薬などによる副作用の軽減など患者にメリットをもたらす目的をもって行われてきました。しかし、医療機関の周囲にいわゆる門前薬局が乱立し、医薬分業の意義のひとつである患者の服薬情報を一元的に把握する機能が必ずしも発揮できていないこと、医薬分業において患者の負担が増える一方で、それに見合うサービスの向上や分業の効果が実感できていないことなどの問題が指摘されています。

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このような問題の解決のため、2015年6月に閣議決定された「規制改革実施計画」には、薬局の機能やサービスに応じた診療報酬となるよう調剤報酬の在り方について抜本的な見直しをし、いわゆる門前薬局については評価の適正化を行うことなどが盛り込まれました。

この流れを受けた平成28年度調剤報酬改定は、患者にとってメリットが実感できる薬局の機能は評価し、実際に提供したサービスの内容に応じて報酬を支払う仕組みに改めるなど、努力した薬局・薬剤師が報われる内容になっています。かかりつけ薬局・薬剤師を評価する視点が盛り込まれ、具体的には、かかりつけ薬剤師指導料等の新設、重複投薬・相互作用等防止加算、在宅患者訪問薬剤管理指導料の見直しなど、対人業務を評価した調剤報酬項目が増加しています。また、後発医薬品の使用については、保険薬局における数量シェアは増加してきているものの、さらなる促進を求めて評価の見直しが行われています。

また、薬局をめぐっては、保険医療機関と保険薬局の立地に関する規制の見直しも新たに実施されています。以前までは、医薬分業の観点から、医療機関と薬局の間にフェンス等を設置し、患者が公道等を介して行き来することを一律に求める規制が実施されていました。しかし、2016年10月に適用された保険薬局の構造規制の見直し(「保険医療機関及び保険医療養担当規則の一部改正等に伴う実施上の留意事項について」)でその運用が改められ、フェンス等を設置せずとも保険薬局の独立性が認められることになりました。

さらには、現在医療制度改革で推進されている地域包括ケアシステム構築においても、薬局・薬剤師が一翼を担うことが求められています。かかりつけ薬局・薬剤師が専門性を発揮して服薬状況を一元的かつ継続的に把握し、薬学的管理・指導を実施する体制を構築する必要があり、多剤・重複投薬の防止や残薬解消などを通じた医療費の適正化にも、その活躍が寄与することが期待されています。

患者本位の医薬分業を実現するために―「患者のための薬局ビジョン」

薬局が地域包括ケアシステム構築の一員としてさらなる貢献をしていくために、2015年10月に厚生労働省から「患者のための薬局ビジョン~『門前』から『かかりつけ』、そして『地域』へ~」(図2)が公表されました。薬剤師の業務を薬中心から患者中心へとシフトすること、門前薬局を含めた全ての薬局がかかりつけ薬局としての機能をもつようにすること、そしてその役割を地域で発揮することが求められています。このビジョンは患者のために真に必要な薬局の機能を明確にするものであり、医薬分業によって患者が医薬品・薬物療法等について安心して相談でき、最適な薬物療法を受けられるような薬局の在り方を目指すものです。以下に患者のための薬局ビジョンの基本的な考え方をまとめます。

(1)立地依存から機能の発揮へ
医療機関の周囲に立地した、いわゆる門前薬局から脱却し、薬剤師の専門性や、24時間対応・在宅対応等の患者のニーズに対応できる機能を発揮する薬局・薬剤師となること。

(2)対物中心の業務から対人業務へ
薬剤の調整等を中心とする業務から、薬剤師の専門性やコミュニケーション能力の向上を通じ、患者と深く関わり合う対人業務へと移り変わること。

(3)服薬情報の一元化と地域での連携強化
患者がかかりつけ薬局・薬剤師を選択することで、不統一感のあった服薬情報などの一元化を図り、重複投薬・相互作用の防止、残薬管理など、安心して薬物療法を受けることができる体制を提供すること。また、地域包括ケアシステム構築の一翼をかかりつけ薬局・薬剤師が担うために、多職種・他機関との連携を図ること。

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今後求められる「健康サポート薬局」

患者のための薬局ビジョンを達成するために、これからは、かかりつけ薬局・薬剤師としての基本的な機能に加え、地域住民による主体的な健康の維持・増進を支援する「健康サポート機能」を発揮する、「健康サポート薬局」が求められてきます。

健康サポート薬局とは、かかりつけ薬剤師・薬局の基本的機能である服薬情報の一元的・継続的把握、24時間対応・在宅対応、医療機関等との連携に加え、健康サポート機能を有し、地域住民による主体的な健康の維持・増進を積極的に支援することができる薬局です。以下に、健康サポート薬局のもつ各機能を担う上でのポイントを紹介します。

【健康サポート機能】
健康サポート薬局とは国民の病気の予防や健康サポートに貢献する薬局であり、各種医薬品等を適切に選択できるような供給機能や、助言をすることができる体制が整備されています。いつでもどこでも住民からの健康相談を受け付けることができ、必要な場合には受診勧告・医療機関紹介等を行うことが求められます。このために、訪問看護ステーション等の社会的資源を把握し、医療機関をはじめとする関係機関と多職種での連携体制を構築していく必要があります。また、健康食品購入の相談等も健康サポート薬局の役割に含まれます。

【服薬機能の一元的・継続的把握】
主治医との連携や患者からの問診票・お薬手帳の内容把握等を通じ、その患者がかかっている全ての医療機関や服薬の情報を一元的かつ継続的に把握し、薬学的管理・指導を実施することが求められています。特に、患者に複数のお薬手帳が発行されている場合、1冊に集約化を図ることが必要です。

【24時間対応・在宅対応】
薬の副作用や飲み間違い、服用のタイミング等に関し、開局時間外でも随時電話相談等に対応することが求められています。具体的には、夜間・休日でも在宅患者の症状悪化時などには調剤を実施することや、地域包括ケアシステムの一環として、残薬の管理等のために在宅対応にも積極的に関与することなどが挙げられます。
なお、ひとつの薬局での実施が困難な場合には近隣の薬局や地区薬剤師会等と調剤体制についての連携を図ることや、へき地等では患者の状況確認や相談受付に当たって薬局以外の地域包括支援センター等と連携することも大切です。

【医療機関等との連携】
薬剤師の業務は、基本的には医師の処方内容をチェックして適切に調剤を行うことですが、普段から医療機関の医師等との連携体制を構築しておき、疑義がある場合は処方医に対して疑義照会や処方変更提案を行うことが必要です。また薬学的専門性の観点からは、調剤後も患者の状態を把握し、服薬情報や副作用等について処方医にフィードバックすることなども求められています。

調剤薬局のさらなる役割 ―「高度薬学管理機能」

また、今後の調剤薬局が充実・強化していくべき機能として、健康サポート機能とともに挙げられるのが「高度薬学管理機能」です。

この機能をもつ調剤薬局には、高度な知識・技能と臨床経験を有し、学会等から認定を受けた専門薬剤師を配置すること、専門医療機関との間で新たな治療薬や個別症例等に関する勉強会・研修会を共同で開催する等の取り組みを継続的に実施することなどが求められています。

具体的には、がんやHIV、難病疾患を有する患者に対し、あらかじめ医療機関との間で対応要領を定め、発熱等の副作用が生じた際の担当医への受診勧告や、併用薬の情報を基にした適切な薬剤選択の支援など、高度な薬学的管理ニーズへの対応を行うことが求められます。

 

これからの調剤薬局には、住民・患者の多様なニーズに対応していくことが求められています。しかし、それらを全国一律にプラットフォーム化・パターン化することは難しく、個々の地域での対策が必要となると考えられます。そのためには、明確なビジョンの下、しっかりとした戦略・戦術を立案し実施することが重要です。基本的には、個々の地域での医療・介護・福祉ニーズなどの把握や医療・介護等の資源調査が必要であると考えられます。

健康サポート薬局や高度薬学管理等、地域で求められる役割を果たすために、調剤薬局は今後一層邁進していく必要があるでしょう。

(編集:サンテ医業コンサル 田中豊章)

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