プロフェッショナルに聞く
マーケティングに携わるプロフェッショナルな人達に
メディマーケ+がインタビュー
自身の経験や実績も踏まえ、マーケティング論を語っていただきます。医薬品以外にも幅を広げ、さまざまな業界のマーケティング担当者さまにもインタビュー予定。

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組織がマトリックス化されていくなかで、マーケティングの新しいリーダーシップを追究する。

松本貴嗣(まつもと たかし)さん

■ご略歴
慶応義塾大学商学部卒業。
P&Gマーケティング本部入社、ヘルスケア&OTC関連ブランドマネジメント業務を経験。
その後、博報堂にて日産自動車のブランド再生や花王のヘアケアブランド開発をリードしてきた。
2004年ボストン コンサルティング グループ入社。消費財、医薬品事業、メディア業界などの経営基盤強化への取り組みを経て、ジョンソン・エンド・ジョンソン入社。ビジョンケアカンパニーマーケティング本部にて、アイケア、糖尿病領域のビジネスディレクターに従事

20代はとことんマーケティングを突き詰めると決めていた

161101_pro_photo1大学卒業後、P&Gのマーケティングに部門採用で入社し、アメリカでのOJT後、神戸本社に勤務しました。その後、東京に戻らなければならない事情もあり、博報堂に転職して、日産チームでのマーケティングや花王チームでの商品開発支援などに携わりました。メーカーへの転職という選択肢もありましたが、より多く様々な経験を積めるチャンスを得るにはどうすればよいかを考えた結果、広告代理店という選択を取りました。博報堂ではアカウントマネージャやプロジェクトリーダーなど、様々な仕事に携わることができました。20代のうちにとことんマーケティングをすると決めていましたが、複数の大手企業のマーケティングにかかわることができたことで、充実したキャリアを積めました。

その後30代に入って、海外留学(MBA修得)を視野に入れていた時に、ボストン コンサルティング グループ(BCG)のコンサルタントだった前Facebook Japan代表取締役の岩下充志さんと出会い、「留学するよりも今の時点で実力を試さないか、現場での体験は机上の勉強を超える」とアドバイスをもらい、BCGに入社しました。BCGでは、セグメンテーションや営業戦略など、どのように事業を組み立てていくか、会社が勝っていくためには何をすべきか、ということより経営的な視点での考え方を実践しました。かかわるプロジェクトとしては、ヘルスケアや消費財が多かったです。この経歴を活かし、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)にマーケティングディレクターとして入社することになりました。

 

仕事もキャリアも大きな絵を描いたほうが成長できる

そもそもマーケティングを志望したのは、商売が好きで、商売とは何かを理解したかったからです。テレビCMや広告の企画制作といった一見華やかな仕事のようですが、実際にはそういった面はごく一部です。主な仕事は過去の数字を洗ったり、どのくらいの反応率になるのかを自分の足で回って確認したり、決まった方式はありませんが、いずれにせよ地道な作業です。そこからいかに緻密な戦略を練り上げ実現していくのか。マーケティングはビジネスを作り上げていく原型を学べる場だと思います。

仮に紙おむつを販売する場合、目的変数はビジネスを大きくすることですが、着目するのは現在の市場の大きさと、ユーザのニーズやライフステージなどを含め、その市場の中で自社が競り勝っていたり、競り負けていたりする理由です。そう考えると、マーケティングの仕事は何にでも通用します。B2CとB2Bは違うと言う人もいますが、私は購買行動の最後のボタンを押すという点で同じだと思っています。そこに壁を作らず、どんどん大きな仕事に取り組んでいけばいい。仕事もキャリアも、ビッグピクチャーを描いたほうがより成長できると思います。

 

自らキャリアを選択・形成し、ジェネラルマネージメントを実践する立場へ

161101_pro_photo2J&Jでは、コンタクトレンズ・ビジネスに携わりました。コンタクトレンズは消費財のように思われがちですが、実は薬事法の中でクラスⅢに分類される高度管理医療機器です。インターネットでも販売されるなど、売られ方はリテール寄りであるものの、基本的には眼科医の診断によって販売されるべきメディカルデバイスで、これを機に「メディカル×マーケ」という分野に深く入り込むことになりました。

コンタクトレンズのマーケティング ディレクタ-、ビジネス ディレクタ-を経て、メディカルカンパニーの糖尿病領域のマーケティングに配属されました。

私はマーケティングという1本の専門性の上にジェネラルスキルを積むという、典型的なT型のキャリア形成をしていると思います。横棒と縦棒と、どちらを伸ばす方が良いという話ではありません。大事なのはそれが会社から与えられたのではなく、自ら選択して作り上げたキャリア形成であるということです。これからキャリア形成していく人にとっても、その点がとても重要になってくると思います。私は、P&Gでマーケッターとしての基本的な考え方を身に着け、BCGでジェネラルマネージメントの基礎をつくり、J&Jでその両方を深め、そして、これからのキャリアで得てきたことを実践していきます。

 

マーケティング部門に求められる強いリーダーシップ

マーケティングの狙いは、顧客を作って事業の機会を大きくし、その間口を広くかつ長く維持することです。そのために、お客様が買う理由や買わない理由の枠組みを作るのがセグメンテーションですが、単純な性別や年代、購入履歴だけでセグメントしても、なんとなくマーケティングはできてしまいます。しかし、各セグメントに対してどうアクションしていくのか、マーケティング戦略や営業戦略が浮き彫りになるような、戦略的なセグメンテーションを行い、強いリーダーシップを発揮する必要があります。

組織内でのリーダーシップの取り方は、かつてはコマンド型で比較的単純でしたが、今は組織自体がマトリックス化している上、コラボレーションが希薄で権限が分散しているため、なかなか話が進みません。強烈なリーダーシップが求められているのに、そのようなポジションはだれにも与えられていないという、一種カオス化しているのが現状だと思います。これまでのように、ナレッジやスキルだけを磨いて、やる気で突破していくというやり方ではなく、誰がどのような知識を豊富に持っているのか、どのような力を秘めているのかを見極めて、良いチームを作って結果を出すというのも、マーケティングの新しい役割ではないでしょうか。

 

個々人の能力をつなぎ合わせて結果を出すというアプローチ

161101_pro_photo3コンサルタントは、自分の知識領域が狭くて深いことをよく認識しています。BCGでは、直接会社からの評価につながることはありませんでしたが、ナレッジをシェアしていくことが文化として推奨され、賞賛されていました。ナレッジシェアにより信頼が生まれ、その後良い仕事にアサインされるようになります。例えば、損害保険の今後5年から10年の市場について知見のある人はいないか全社に向けて投げかけると、1時間後には「今日の夕方30分なら時間を取れるよ」といった返信が来ます。コンサルタント業界は特殊なのかもしれませんが、部門を超えてアイデアを出したり、ナレッジをシェアした人に対してのアワードを作るなど賞賛の文化を醸成することは、どの業界でもできるはずです。

また、特に日本人が多数派を占める組織の場合には、強いリーダーシップを発揮してチームを牽引しているつもりでも、振り向いたら誰もついてきていないということも少なくありません。やることはそこそこやっているが、気持ちが冷めているというケースがあるんですね。時にはリーダー自らが後ろに回り込んで、後ろから支え、巻き込みながら結果を出すまでフォローすることも大事だと思います。壮大なミッションでも、各人が「自分ゴト化」できる目標にまで分解して落とし込んでいって、個々の達成を一体化することでミッションを完遂できるように導く。どんな人でも必ず才能を持っています。それを見出してつなぎ合わせていくのもマーケティングの仕事になると思います。このようにより大きく捉えてみると、事業=マーケティングであり、マーケティングのスペシャリストは事業責任者や経営者なのだということがわかってくるのではないでしょうか。

 

仕事をする上で大切にしている4つのこと

161101_pro_photo4仕事をする上では、どのセグメントを狙うかという“フォーカス”、勝ちたいという“エナジー”、正確かつ迅速に取り組む“スピード”、どうすれば市場で大きくなれるかという“ビッグピクチャー”、この4つを忘れないようにしています。評価は数字によってなされるものですが、数字はお客様が並みいる競合製品の中から自社の製品を選んでいただくことによって、作り上げられます。だからこそリーダーが重視すべきなのはお客様のニーズであり、そこに向かう熱量です。この熱量が大きく正確で、フォーカスできていればいるほど、おのずと結果である数字はついてくるものです。

これまで、どんなに目先の仕事に追われていても、長期的な自分のビジョンを考えることをやめてしまうのではなく、保温状態を作ってマグマだまりのように溜めて置きました。目の前のことも大事です。日々の確実なデリバリ無くして長期のプランは成り立ちません。しかし、自分のビジョンを常に保っておくことで、軌道にズレが生じたときには修正したり、大きなズレであれば飛び出せばいいと思うんです。やり方は人それぞれですが、いつも、自分が本当にワクワクしているか、誇らしいと思えるかという基準で、右脳で感じて道を選んできました。

ヘルスケアは私自身のポテンシャルが発揮できる領域です。誰にとってもライフゴールは健康で長生きできること。1人でも多くの人がより健康で自分の人生を長らえるようにするためには、ヘルスケアのプロフェッショナルから、正しい情報を正しく得られるようにすることが重要です。そのための情報比較検討の機会が、日本ではまだまだ不足しています。だからこそ自分の価値が活かせる場なのだと考えています。

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社保審医療保険部会10月26日 スイッチ化された処方薬、給付率下げに慎重論
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