プロフェッショナルに聞く
マーケティングに携わるプロフェッショナルな人達に
メディマーケ+がインタビュー
自身の経験や実績も踏まえ、マーケティング論を語っていただきます。医薬品以外にも幅を広げ、さまざまな業界のマーケティング担当者さまにもインタビュー予定。

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開発者とマーケターの経験を活かし、アイケア啓発を通じて、今後の市場の活性化につなげていきたい。

参天製薬株式会社
薬粧事業部 マーケティング室 室長
前田英人(まえだ ひでと)さん

■ご経歴
・1969年生まれ、慶應義塾大学医学研究科修士卒
・1996年P&G入社(研究開発)
   ミューズ、Safeguard、SK-IIなど日本、アジア・ヨーロッパ向けスキンケア製品の開発に従事
・2001年日本コカ・コーラ株式会社入社
   からだ巡茶、爽健美茶などお茶製品開発及びマーケティングに従事
・2011年から現職

「そこまで言うなら、お前がやれ」、この一言でマーケティング職に異動

DSCF0060 (478x640)最初の会社P&Gでは、研究開発で主にスキンケア製品の研究開発に従事していました。この会社は、マーケティングカンパニーのイメージが強いですが、高度なマーケティングを支える強い製品開発体制を世界共通のフォーマットで持っているのが、実際の強みです。Consumer is our bossという理念の下、研究者が自ら作ったプロトタイプを実際の消費者に使ってもらい、インタビューや定量調査を行いながら改善を繰り返していきます。世界中の消費者データを読み取り、数ヵ国で通用する共通処方を磨き上げる体制が整っています。したがって、研究者は実験データのみならず、消費者調査から導き出されたデータを読み解くスキルに精通しているのです。

こうした経験が、日本コカ・コーラで役立ちました。当時の上司はコカ・コーラに蔓延する直感型のディシジョンメイキングから、客観型のロジックを基にしたディシジョンメイキングに変えたいと考えていました。その理由は、私が入社した2002年頃、日本コカ・コーラから発売される新製品のほとんどがHITに恵まれず、開発プロセス自体を見直している時期だったからです。こうした事情で、研究部門の開発フローを見直し、製品、パッケージ、クリエイティブ、上市後トラッキング等、すべての調査を標準化し、要所要所に設定されたKPI(Key Performance Indicator)を数値で判断できる体制を構築したのです。そのシステムを基に、新製品アイデアの事前予測を行い、マーケティング部門が一生懸命作ったコンセプトを、客観指標で否定されるものですから、社内からは、「何なんだ、あいつは」みたいなことも言われたりしました。結局、「そこまで言うなら、お前がやれ」ということになり、マーケティングに異動になったのです。

 

マーケターとしての成功体験、漢方の思想で解毒をコンセプトとした”からだ巡茶“

最初のミッションは、「全く新しい概念を持つお茶を2年で開発せよ」でした。当時は失われた10年の真っただ中で、日本国中、深夜残業が当たり前の時代でした。深夜残業後、朝までお酒を飲んで、サプリメントで補強して、病気になったら薬を飲む、のような人がたくさんいた時代です。そのような生活をおくっていながら、体の不調や肥満、肌の吹き出物を気にする。そのような時に流行り始めていたのは、効果根拠が数字で示されるトクホ飲料と、デトックス(毒素排出)やマクロビオティック、ヨガなど、ナチュラル志向の生活スタイルでした。このような消費者行動にフィットするお茶を作れば当たるのでは? と考えたのが、漢方の思想で解毒をコンセプトに作られた、からだ巡茶でした。

処方開発は難航しました。漢方素材は少し混ぜ方を間違えると劇的に味が悪くなる、そもそもエビデンスの考え方が西洋医学とは異なるなど、今までの処方の考え方では太刀打ちできません。コンセプト開発のために生薬専門商社、中医師、学会の権威など、ありとあらゆる人脈を駆使して議論しましたが、陰陽五行と気血水という2つの大きな考え方をうまくまとめられずにいました。困り果てたそんな時、あるファッション誌で「漢方で美白」というセミナーが目にとまりました。これが処方監修を依頼した薬日本堂社との出会いでした。

漢方薬局の薬日本堂社は、店の造りやパッケージがお洒落で、特に都会の若い女性を中心に支持を集めていました。また、本場の中医師を多く抱えており、専門的なのですが素人にわかりやすい漢方の考え方を啓蒙しているユニークな漢方屋さんでした。薬日本堂社の協力で処方開発が一気に進みました。ただし、薬日本堂社に作ってもらった初期処方は飲料としては美味しいものではありませんでした。そこで日本コカ・コーラのお茶の専門部署と共同体制を取り、効果を維持しつつ、美味しい漢方茶を実現することができました。

 

三位一体で機能した素晴らしい経験

本製品は新カテゴリー開発だった為、前例が無いこと嫌う社内プロセスとの戦いが必要でした。反対者は多数おりましたが、根気強く議論を重ねることで納得させるしかありません。不思議なことに、同じ内容を言葉や資料の雰囲気を変えて5回程説得を行うと、今まで反対者だったのに賛成者に翻ることが多々あります。同化してしまうのでしょうね。このようなプロセスを経て、大きな予算がつく(反面多くの売り上げも要求されますが)重点新製品として全社を説得できたのは成功要因の大きな一つです。

紆余曲折を経て本品は2006年春に上市され、この年の新製品ランキングでお茶部門1位、パッケージデザイン大賞、媒体主催の各種賞などを多数いただきました。ヒット確率3/1000と言われる飲料業界で生き残れた要因は、理解ある上司、優秀な開発陣、熱意のある広告代理店が三位一体で機能したことだと思います。特に広告代理店は、当時3年ほどTVから遠ざかっていた広末涼子さんを敢えてキャスティングし、“広末涼子浄化計画”と銘打った、製品特性をわかりやすく伝える大胆なキャンペーンを提案してくれた提案力には脱帽でした。

 

ピークを迎えたブランド“爽健美茶”で味わった、維持・拡大の難しさ

失敗経験もありました。爽健美茶に異動した時です。このプロジェクトを通じて、売上、製品認知、配荷が最大値に達したブランドを維持・拡大するのは、新ブランド立ち上げよりも格段に難しいということを思い知らされました。当時、売上が下降傾向で引き継いだのですが、大型ブランドが一度下がり始めると小手先施策では止まらない。緊急キャンペーンに加え、製品追加で何とか凌いだのですが、結果的に主製品の下落歯止めはできなかった。また、既に巨大ブランドでしたので、社内に本製品を育てた歴代の担当者がたくさんいる。例えば、こんなキャンペーンを実施しますと社内にアナウンスすると、電話が鳴って「前田君、これは爽健美茶には合わないと思うよ・・・」みたいな、ちょっとコワい忠告が結構ありました。その対応も含め苦労はしましたが、今振り返るとなかなかできない経験だったと感じています。

 

アイケア啓発を通じてのマーケティング、さらなるマーケット活性へ向けて

DSCF0064 (478x640)現在の会社で5年が経過しました。これまで目薬の新規ユーザー取り込みによるカテゴリー成長を目的に、TVCMを活用した大規模キャンペーンから、WEBや店頭のみの施策など、大小織り交ぜながらマーケティング施策を投下してきました。おかげさまでユーザー数も増えてきており、結果として5年連続成長中です。反響のあるマーケティング活動を実施すると、広告を投下したその日に消費が動きます。したがって、面白そうなキャンペーンを企画すると顧客獲得に苦心されているドラッグストア様の受けがよく、より多くの棚をいただけるのでユーザーとのタッチポイントが増えます。このタッチポイントを活用し、最近ではキャンペーンだけでなく、純粋なアイケアの啓発も始めています。最大の目的は、本当に目の症状に悩んでいるアイケアノンユーザーに気づきを与え、重要性を説いていく事にあります。情報の8割は”目”から入ってくると言われており、非常に重要な器官であるにも関わらず、ダイエットやビューティーと比べると、消費者の興味は大きくない。これは、アイケアを主な領域としている弊社がもっと本腰入れていかねばならないということの裏返しでもあり、現在色々と構想中です。また、目薬自体はこの数年微増傾向ですが、サプリメントや空気清浄器(花粉対策)、アイマスク(疲れ目対策)など異業態による市場創造が活発な領域でもあります。当社は目薬メーカーですが、私の所属する薬粧事業部はドラッグストアなどで売ることができる製品が管轄ですので、新事業開発も業務範囲です。成熟した日本市場において、どのような進化をさせてアイケア市場を活性化していくべきか、そして最近話題のインバウンド需要から発見したアジアにおけるアイケアニーズの存在も横目で見ながら、いろいろと楽しく模索中です。また最近では、セルフメディケーション推進の流れもあり、このような考え方は、国の財政を助けることにも繋がると思います。なによりいつまでも健康で快適な生活を送って頂くためには、目は問題なく見えたほうがいいに決まっていますから。

 

私の仕事観

DSCF0065 (478x640)これまで十数か国向けの製品開発やマーケティングを通じて様々な国籍の方と仕事をさせていただきましたが、国により仕事のスタイルが違うのは面白い発見であり、仕事観に影響を受けています。一般的な傾向として、アメリカ人は結果志向、イギリス人はプロセス志向、フィリピン人は楽観的、日本人は調和志向など、ワークスタイルは多国多様です。こうした志向の違いを、仕事を通じ経験できたことは、今の自分に大きく影響を与えていると感じています。

私のポリシーですが、後で後悔するのは嫌なので、やりたいことは、大小レベルはあるけれど、やってしまったほうがいいのではと思います。実行して失敗するほうが、何もしないよりいいということです。しかし、やみくもに“やりたいからやる”では、さすがに組織として通用はしないので、戦略をしっかり立てて、それに沿った戦術を展開するように心がけています。逆に言うと、戦略なしに戦術に頼ればうまくいかない。大義さえしっかりしていれば、そうそう失敗はしないと思います。

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