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NDBオープンデータ ―進む医療データの開示とその活用

はじめに

ご存知のように2025年は団塊の世代が75歳以上となり、後期高齢者の割合が高くなる年ですが、少産多死化が進むことによるその後の2035年、2045年の人口減少時代も見据えた上で、製薬会社の皆さんも各エリアでどのような戦略を立てていけばよいのか考えておく必要があります。

国民皆保険制度をもつ我が国において、政府は逼迫する医療費を抑制する方向であり、医療費の適正化・効率化が求められています。製薬会社の皆さんもこの医療保険制度のプレイヤーのひとりとして医療資源の適正化にも関与すべきであると考えられます。この先、製薬会社が生き残っていくためには、社会に対する貢献度をより高めていくことが必要不可欠だからです。「公正競争規約に定められているからできません/しません」と医療保険制度の一員としての立場を自ら放棄することのないように、まず担当地区が将来どうなっていくのかを考え、次に政府はどのように医療制度を改革しようとしているのかを理解し、その中で何ができるかを考えることが重要です。

まず、政府の医療制度改革に対する方針ですが、2014年6月に公布された「医療介護総合確保推進法」(地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律)に、2025年に向けての制度改革が示されています。そのキーワードは、「地域」「可視化」「自己責任」だと考えられます。

また、担当地区が将来どうなっていくか、その中で何ができるかを考えるために有用な手法として、「バックキャスティング」の発想法が挙げられます。これからは従来の、過去を回想して将来を予測する「エクストラポレーション」手法の時代は終わり、将来、例えば2025年にMRの皆さんが担当地区で自社製品などを通してどのような貢献ができるのかを想定し、そこから現在を振り返って今何をすべきなのか、今後何をしていくべきなのかということを考える、バックキャスティングの発想法が重要になってくると考えられます(図1)。

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そして、地域の現状を把握するにあたっては医療データの活用が重要となってきます。昨今、厚生労働省の施策でも「可視化」が重要なテーマに位置づけられるようになってきており、医療に関するデータの開示が進んでいます。これらは保健医療に関する各種政策の立案や各種研究を行うにあたっても、非常に貴重な客観的なデータであると考えられています。中でも、厚生労働省が構築し公表している、電子化されたレセプト情報ならびに特定健診・特定保健指導情報を収集した「レセプト情報・特定健診等情報データベース」(以下、NDB:National Database)オープンデータが地域の現状を把握するにあたって有用です。

今回は、このNDBオープンデータについて詳しく解説します。

NDBオープンデータ公表までの経緯

そもそもNDBは医療費適正化計画策定のためのデータを得る目的で構築されたものですが、厚生労働省の「医療サービスの質の向上等のためのレセプト情報等の活用に関する検討会」で、医療サービスの質の向上等を目指した正確なエビデンスに基づく施策の推進や、施策に有益な分析・研究において、また学術研究の発展のためにも一定のルールのもとで活用してはどうかという提言がまとめられました。ここで、NDBオープンデータが公表されるまでの経緯を以下に示します。

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NDBオープンデータは非常に多くの国民を対象とした貴重な保健医療データでもあることから、医療費適正化計画の策定以外でも、医療サービスの質の向上などを目指した正確なエビデンスに基づいた施策の推進や、これらの施策に有益な分析・研究、学術研究の発展に資する目的での活用が期待されています。

NDBオープンデータの公表に先立ち、2011年度より研究者向けにNDBのデータ提供が開始されていますが、提供依頼の申し出ができるのは国の機関や都道府県・市区町村、研究開発独立行政法人、大学所属の研究者等に限られています。しかしその後、汎用性の高い様々なニーズに応えられる基礎的な集計結果を公表し、誰でも自由に利用できるようにするのが適切であるとの考えから、2016年10月に第1回NDBオープンデータが公表されました。

NDBオープンデータの内容

2016年10月に公表された第1回NDBオープンデータは、2014(平成26)年度(平成26年4月から平成27年3月診療分、約18億800万件)の医科診療報酬点数表項目、歯科傷病、薬剤データおよび2013(平成25)年度実施分の特定健診(約2,600万件)集計結果であり、そのカバー率は95%以上と高いものになっています。

なお、公表項目はレセプトの全ての情報ではなく、患者氏名、生年月日の「日」、保険医療機関の所在地・名称、カルテ番号、被保険者証(手帳)等の記号・番号などは、個人が特定されないように削除されています。そのかわり、該当する個人を紐付けて抽出・分析を行うために、ID(ハッシュID)が付与されています。

【医科診療行為】
医科レセプトおよびDPCレセプト情報を基に、初・再診料などのA:基本診療料からN:病理診断のうち、主なものについて都道府県別、性・年齢階級別の集計が行われています。また、「手術」「検査」といった臨床現場の診療の実態を考慮した集計も行っています。

【歯科傷病】
歯科レセプトの傷病名情報に基づき、「う蝕」「歯周病」「喪失歯」事例の外来・入院について集計が行われています。

【薬剤】
「内服」「外用」「注射」の剤形ごとに、それぞれ「入院」「外来(院内)」「外来(院外)」の3つのカテゴリーに分類されています。薬剤分類(3桁)別に使用実績上位30位までの薬剤(薬価基準収載医薬品コード〈12桁〉)の使用実態について集計が行われています。

【特定健診】
「腹囲」「空腹時血糖」「血圧(収縮期・拡張期)」「中性脂肪」「γ-GTP」などの主な検査項目の集計と、これらの平均値の記載がなされています。
なお、NDBオープンデータの公表にあたっては「レセプト情報・特定健診等情報の提供に関するガイドライン」が遵守されており、特定の個人や医療機関が識別されないように最小集計単位の原則が適用され、患者数等が規定に満たない場合、原則的に「-(ハイフン)」として処理されています。

NDBオープンデータの成果と活用

NDBのメリットは、データ量が膨大なこと、データの種類が多いこと、データ分析が早くなったことにあります。更に、今後の超高齢化社会という環境で、健康寿命の延伸と高齢者の医療福祉費の適正化という、相反する重要な課題に対して国民の納得感を得るためにも、NDBオープンデータによる可視化が重要であり、医療健康分野においても飛躍的な改善やイノベーションの進展に寄与するものと考えられます。具体的に活用事例を考えてみましょう。

エリア別に違いを把握することが可能
日本の地域の状況を考えた場合、人口構造(その推移、将来推計を含む)、住民の健康・疾病状況、医療提供体制の状況などにおいてエリアによる違いがあることが推測できます。そこで、このNDBオープンデータを活用することにより、都道府県別の医療需要や医療提供体制などの状況を具体的に把握することができます。例えば、医療機関が別の医療機関に対して診療情報を示す文書を添えて患者の紹介を行った場合に算定することができる診療情報提供料(1)などのほか、在宅患者訪問看護指導料やがん患者指導管理料、糖尿病合併症管理料などの算定状況もエリア別に把握できます。

医薬品使用状況の把握が可能
NDBオープンデータの「薬剤データ」では、医薬品の使用状況が、都道府県別、男女別、年齢(5歳階級)別にまとめられており、その把握が可能です。例えば、徳島県で使われている糖尿病薬の薬剤名、後発品の使用状況なども判り(図2)、地域でどのような糖尿病薬がよく使われているのか、医療機関のみならず患者も知ることができます。また後発品の処方状況から、調剤薬局ではどのような後発品を備蓄しておけばよいのか対策をとることが可能となります。

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日本製薬工業協会の見解
国民に必要な医薬品を早く届け、その安全性を確保することが義務である製薬企業の団体、日本製薬工業協会では、網羅性が高く臨床実態を反映するNDBによって治験や新薬の開発の活性化が図れるほか、大規模なデータソースによって医薬品の稀な副作用等の早期検出と評価が可能となると考えています(図3)。

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第1回NDBオープンデータが公表され、時代はデータの「収集」からいかに「分析・活用」するかという時機にきたのだと考えられます。データが都道府県単位であるなどまだまだ粒度も荒く、一般の人が活用するには不足な点もあるかもしれませんが、今後は医療サービスや医療の質の向上、医療政策策定のためのデータとして、更に活用できるものとして公表されることを期待しています。

(編集:サンテ医業コンサル 田中豊章)

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