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製薬会社ができる、地域包括ケアシステム構築支援への取り組み

2025年に向けて地域包括ケアシステム構築が急務となってきている日本の現状と、製薬会社がさらに社会に貢献をしていくためにこのシステム構築に取り組むことの必要性を十分理解し、実際にどのように実施していけば良いのかなども含めてお話し致しますのでご期待下さい。

地域包括ケアシステムとは

地域包括ケアシステムとは「地域の実情に応じて、高齢者が可能な限り住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、医療、介護、介護予防、住まい及び自立した日常生活の支援が包括的に確保される状態」を実現するための仕組みと定義されています。

160701_oyakutachiinfo_fig1図1は、地域包括ケアシステムを端的に表しており、高齢者にとって「すまいとすまい方」が中心で、その植木鉢の中に「生活支援・福祉サービス」という土壌があり、それにより医療・看護、介護・リハビリテーション、保健・予防を育てるために、地域包括ケア会議と地域包括支援センターが水を与えます。そしていつまでも安心して生きていける仕組みの中に、ケアプランがあって、地域全体でケアマネジメントを行っていくためにケア付きコミュニティを構築するという考え方が前面に出されています。

また、地域包括ケア(The Integrated Community Care System)の英文にもあるように、その実施には統合(Integrated)というキーワードで考える必要があると考えます。医療と介護の連携をさらに進めた統合において、医師やケアマネジャーなどとの情報の共有はもちろん、医療から介護までをも考慮した一元的で統合的な管理とそれをコントロールする指揮命令系統、すなわちガバナンスが重要となってきます。

なお、地域包括ケアという言葉を最初に使ったのは、広島県尾道市にある公立みつぎ総合病院の山口昇医師です。脳卒中などの患者の生活の質の向上を図っていくために、治療、予防、リハビリテーション、介護、福祉を専門家だけではなく地域ぐるみで住民も参加し実施していかなければならないとしてこの言葉を使ったのです。

なぜ地域包括ケアシステムが必要なのか

160701_oyakutachiinfo_fig22013年8月に出された社会保障制度改革国民会議の最終報告でも、これからの地域医療・介護は「病院完結型」から「地域完結型」へ大きく変わっていくことが求められており、そのゴールが2025年になっています。また、団塊の世代が75歳以上を迎える2025年には高齢化率が3割を超えて、一人暮らしの高齢者は480万人から700万人に増えます。特に認知症が予備軍を含めると今後倍増するとの推計も出ています。死亡者も現在は年間約120万人ですが、これが2025年になると140万人から150万人に増えていきます。その対応としては、例えば高齢者専用住宅など増やしていけば良いのですが、現状では土地が少ない都会などで高齢者のための施設を増やすことは特に難しい状況です。また、入院難民、介護難民や看取り場所の無い看取り難民が40万人から50万人出てしまうといわれています。そうならないためにも在宅でしっかり高齢者を支える地域包括ケアを進めていく必要があるのです(図2)。

地域包括ケア成功のポイントの一つは、急性期医療、慢性期医療、在宅全体を通じ、急性期治療が終わったらすぐに慢性期に回し、そして在宅でその人らしく看取りを迎えるという患者さんの流れを作ってゆくことです。

地域包括ケアは、一つの地域でみなが安全で安心して暮らせるまちづくりをしていくことだと考えられており、市町村と医師会、病院や介護施設、訪問看護ステーション、薬剤師などいろいろな関係者が集まって、このまち、この地域をどうするかという相談が日常的に行えるような体制、地域包括ケア会議をつくることが重要です。それには医師、看護師、ケアマネジャーなどとの多職種連携が不可欠です。そして、概ね中学校区に一つある地域包括支援センターでは医師会とさらに連携すること、市町村レベルでは、市町村、医師会、病院、介護事業者など、みなが一堂に会して顔が見える関係づくりをし、連携していくことが求められています。

地域包括ケアシステムの事例

地域包括ケアは全国5,712カ所の日常生活圏(医療介護総合確保圏域)で構築することが求められていますが、都市部では要介護者の急増と医療介護の担い手不足が問題となり、地方では人口減少化に対応することが求められています。

このような状況において、千葉県柏市豊四季台団地における、柏市役所・東京大学・UR都市機構の三者による地域包括ケアの取り組みが先進的事例として挙げられます。豊四季台団地(1964年に管理開始)では、高齢化率が4割を超え、独居老人も多く孤独死も発生しており、柏市役所としても対策が求められていました。UR都市機構が同団地のリニューアルを計画していたこともあり、将来的に避けられない長寿社会に向けての実験が東京大学高齢社会総合研究機構、柏市役所との間で始まりました。

成功のポイントは、(1)在宅医療体制の推進、(2)多職種連携の強化、(3)高齢者の生きがい作りの創生などを目標に掲げ、柏市役所・東京大学・UR都市機構の三者により地域包括ケアシステムを構築したことにあると考えられます。

(1)在宅医療体制の推進
160701_oyakutachiinfo_fig3一人医師の診療所では、24時間365日の在宅医療体制への対応は困難なケースも考えられるため、最低3名以上の在宅医が関わる主治医・副主治医のシステムで在宅医療を進めています。柏市医師会のプライマリケア委員会が中心となり、患者の生活環境なども考慮し、家族や患者本人の了解のもと、主治医の紹介や診療所の医師への在宅医療の実践促進も行っています(図3)。

 

(2)多職種連携の強化
160701_oyakutachiinfo_fig4在宅医療を円滑に進めるには医師主導だけで行うのではなく、看護師、歯科医師、薬剤師、ケアマネジャーなど多職種との連携が重要で不可欠です。在宅医療に関する多職種の関係者を増やすため柏市と柏市医師会では多職種連携研修を実施しています。そのプログラムは東京大学高齢社会総合研究機構などの協力のもと実施しています(図4)。

 

(3)生きがい作りの創生
160701_oyakutachiinfo_fig5高齢者が会社人生などで培った経験などを定年後も若人に伝えることにより、この地域で生きがいを持って生活してもらう取り組みが行われています。実際にはいろいろな経験をワンコインで教えてもらうということを行っています(図5)。

 

 

製薬会社が地域包括ケアシステム構築でまず協力できること

介護保険の地域支援事業として各市区町村は、2018年までに地域包括ケアシステム構築のため実施すべき事項として8項目を挙げています。その中には、「地域の医療・介護サービス資源の把握」、「在宅医療・介護関係者の研修」、「在宅医療・介護サービスの普及啓発」など製薬会社にも協力できるところもあります。例えば、地域の医療機関、介護事業所の住所、連絡先、機能などの情報を収集し、リスト化、マップ作成などを行い関係者に提供することも考えられます。

実際に地域包括ケアシステム構築するために

製薬会社として地域包括ケアシステム構築に協力していくには、まず在宅医療の実施状況を調査することが考えられます。各都道府県のホームページに医療計画が掲載されていますので、在宅医療の現状を調べることが可能です。各医療圏保健医療計画には、在宅医療等の現状、在宅医療サービス等の実施状況、その医療圏における支援施策、課題、今後の方策が示されています。具体的には、(1)在宅患者の多様なニーズに対応するため、保健・医療・福祉の連携が、より一層図られるよう努めること、(2)「地域包括ケアシステム」の構築に努めること、(3)かかりつけ医、かかりつけ歯科医、かかりつけ薬局を持つことの重要性について啓発すること及び病診連携システムの推進に努めること、とされていますので、製薬会社で必要・重要だと考えられる項目から実施されることをお勧めします。

また各都道府県の医師会のホームページから、地域包括ケア担当役員の先生を知ることができます。例えば、ある県の医師会役員職務分担に「在宅医療・介護」担当として副会長の先生が記載されています。この担当の先生に面会しその地区の地域包括ケアの現状を聞くことにより、次にどのようなことが計画されており、それに対して各製薬会社でどのように関与できるのか判りますので、それにより実施することもできます。

では今回の事例などを参考に地域包括ケアシステム構築のためのアクションをぜひ実際に起こしてみて下さい。

(編集:サンテ医業コンサル 田中豊章)

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