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地域医療構想と製薬会社の活動のポイント

現在、各都道府県で策定を進めている地域医療構想は、2014年に成立した医療介護総合確保推進法に基づき、それぞれの地域での医療提供体制の効率化を図るために行われる施策です。それによると概ね二次医療圏単位の構想区域で各医療機関の担う機能がそれぞれ決められることになります。病床数の削減も含めた医療環境の変化が起こると考えられるため、製薬会社に対しても大きな影響があると予想され、その動向の把握は必要不可欠です。

地域医療構想とは

そもそも地域医療構想とは何なのでしょうか。まず、1985年の第一次医療法改正により、地域における医療の需要と供給に関する医療計画制度が導入されています。地域医療構想もこの医療計画の一環と位置づけられています。

地域医療構想は団塊の世代が後期高齢者となる2025年にあるべき医療提供体制を実現するため、構想区域(概ね二次医療圏単位)ごとに4つの医療機能(高度急性期、急性期、回復期、慢性期)の区分別に医療需要を推計し、それに対する必要病床数などを決めるものです。

各都道府県における地域医療構想の策定進捗状況

2016年3月に公表された「都道府県の地域医療構想の策定の進捗状況」(厚生労働省医政局)によると、構想策定の予定時期としては、2015年度中が15都道府県(32%)、2016年度半ばとしているのが24都道府県(51%)、2016年度中が8都道府県(17%)となっており、大半の都道府県でこれから策定を予定している状況です(図1-a参照)。

また、既に開催された構想策定に関する会議の回数では、すべての都道府県で医療審議会などの会議を1回以上開催していることがわかります(図1-b参照)。

さらに、構想区域ごとの会議の開催状況によると、すべての構想区域で会議を開催した都道府県は44(94%)、未実施の都道府県は3(6%)となっています(図1-c参照)。160801_oyakutachiinfo_fig1

地域医療構想は、各医療機関から提出される病床機能報告制度の報告内容などの情報を基に策定されます。

病床機能報告制度とは

160801_oyakutachiinfo_fig22014年10月に開始された病床機能報告制度では、全国の医療機関がその機能(病棟単位での4つの医療機能、医療機関単位での構造設備・人員配置など)を毎年1回各都道府県に報告することとされており、現在、2015年度の報告状況が公表されています(図2参照)。2015年度の報告は表1の項目により実施されています。

この病床機能報告制度の役割には、(1)地域の医療機能を把握し、地域医療構想の策定や見直しのための基礎資料とする、(2)地域医療構想策定後、地域における医療機能の分化・連携のための取り組み状況を把握する、の2つがあると考えられます。そして、この報告内容などを基に、各都道府県では地域医療構想の策定が行われているのです。160801_oyakutachiinfo_table1

地域医療構想の策定プロセス

160801_oyakutachiinfo_fig32025年の疾患別患者数などの医療需要を予測するにあたっては、基本的にはレセプトデータであるNDB(National Data Base)やDPCデータ、および社会保障・人口問題研究所の人口推計などのデータがベースとなります。これらに基づいて推計した2025年の医療需要と、病床機能報告の内容との違いにより、想定区域でどの区分の病床機能がどれ位過不足しているのかが判りますので、地域医療調整会議などでそのギャップを検討することになります(図3参照)。

なお、地域医療構想では、医療機関以外の、将来の介護施設や高齢者住宅を含めた在宅医療等で対応する患者約30万人も推計されています。

地域医療構想策定後の取り組み

地域医療構想策定後は、構想区域ごとの地域医療構想調整会議において、地域医療構想の実現に向けた具体的な協議が進められることになります。年1回の病床機能報告の際に、各医療機関における自主的な取り組み状況等の報告を求め、それらの報告も踏まえ、各都道府県において地域医療構想の達成に向けた取り組みを進める必要があります。このため、地域医療構想策定後においては、その取り組み状況を把握するために必要な具体的な事項などについての検討がなされています。

(1)各医療機関における取り組みの共有

各医療機関は、自らの行っている医療内容やその体制に基づき、将来目指している医療について検討することになります。その上で、自院内の病床機能の分化を進めるにあたり、地域における自院の病床機能の相対的位置づけを客観的に把握しながら自主的な取り組みを進めることが必要になります。病床機能の分化を進めるにあたり、参考となる取り組みを関係者と共有するため、各都道府県に対し以下の要領で報告することとしています。

  • 対象となる医療機関は、前年度の病床機能報告以降に病床機能を変更した医療機関、もしくは次回の報告までに病床機能の変更を予定している医療機関
  • 報告を求める項目の例としては、地域医療介護総合確保基金の活用状況、どのような施策で何床転換したかなどの病床機能転換の取り組み内容

(2)各都道府県における取り組みの共有

各医療機関の自主的な取り組みおよび医療機関相互の協議により、将来のあるべき医療提供体制を実現するためには、地域の医療提供体制の確保に責任を有する都道府県が、その役割を適切に発揮する必要があります。その役割を果たすためには、(1)の個々の医療機関の取り組み状況等の把握に加え、他の都道府県の取り組み状況等も参考となることから、各都道府県が次の項目の情報を提供し、共有することとされています。

【都道府県に情報提供を求める項目の例】

  • 地域医療構想調整会議における検討状況(開催回数等)
  • 当該期間で病床機能を変更した医療機関数および病床数
  • 病床機能の変更につながる地域における取り組みの好事例
  • 地域医療介護総合確保基金の活用状況 等

地域医療構想に関連する、製薬会社の活動における3つのポイント

地域医療構想の策定に使用される病床機能報告のデータは、各医療機関の今後の経営戦略策定などにも役立つと考えられます。そして、製薬会社にとっては次の3つのポイントに着目し活動していくことが重要であると考えられます。

1つ目としては、地域医療構想では医療機関に対し、不足している病床の医療機能区分に係る医療の提供などの要請や、稼働していない病床の削減の命令などを、都道府県知事の権限で強制的に行うことが可能になります。このように、医療機関の機能分化が求められますので、担当の医療機関がまずどのような医療機能を担う医療機関となるのか、どこの医療機関とどのような連携を行うのかを掴んでおくことがポイントです。

2つ目は、地域医療構想の策定の状況を把握することです。高度急性期から在宅医療・介護までの一連のサービス提供体制を一体的に確保するため、整合性を持った形で各都道府県が地域医療構想を策定することとされており、医療機関の機能の明確化が行われますので、どこの医療機関がどのような4つの医療機能の病床をどれだけ確保するのか、またしようとしているのか、その状況をしっかりと把握しておくことが必要です。そのため、特に地域医療構想調整会議に参加する医師会の先生方とのコンタクトを深めておくと有意義な情報が得られると考えられます。

3つ目のポイントは、地域医療構想を策定するにあたり、医療提供体制の構築と並んで見据える必要がある、地域包括ケアシステム(2016/7/11「製薬会社ができる、地域包括ケアシステム構築支援への取り組み」参照)に関わるものです。地域包括ケアシステムの構築に向けた介護保険の包括的地域支援事業として、新たに地域ケア会議の推進、在宅医療・介護連携の推進、認知症施策の推進、生活支援サービスの体制整備を行い、2018年までに各市町村が地域包括ケアシステム構築に必要な計画を必ず策定することになっています。担当医療機関が、市町村の計画にどのように参画するのか把握することが必要です。

地域医療構想により、医療機関のみならず、製薬会社にもマーケティング戦略の変更などの対応策が求められてくると考えられます。各都道府県、構想区域ごとに地域医療構想の策定が進んでいますので、その状況の把握はもちろん、各医療機関がどのような機能を担うのか、どのように地域の他の医療機関と協業して行くのかなどの情報を掴み、今後の戦略を立てて下さい。

(編集:サンテ医業コンサル 田中豊章)

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