■セミナー便り
1.ロタワクチン定期接種の重要性を解説-日本大学医学部小児科学分野:森岡一朗主任教授-
■行政トピックス
1.副反応部会・安全対策調査会合同開催 9月25日 HPVワクチン接種希望者に情報をしっかり届ける
2.医療用から要指導・一般用への転用評価検討会議 9月24日 規制改革推進会議の批判受け会議運用見直しも検討課題
■セミナー便り
1.ロタワクチン定期接種の重要性を解説
-日本大学医学部小児科学分野:森岡一朗主任教授-
MSDは9月17日、「ロタウイルス胃腸炎の疾患情報と定期接種の概要」と題したオンラインメディアセミナーを開催。10月1日よりロタウイルスワクチンが定期接種の対象となることに先駆けて、日本大学医学部小児科学系小児科学分野の森岡一朗主任教授を招き、ロタウイルス胃腸炎およびロタウイルスワクチンの定期接種に関する解説を行った。
登壇した森岡主任教授は始めに、ロタウイルス胃腸炎の症状や治療について、現状を説明。ロタウイルスは非常に感染力が強く、先進国においても乳幼児下痢症の主要原因となっており、下痢や嘔吐、発熱、脱水などの症状が出てくる。加えて、胃腸炎だけでなく重篤な合併症を引き起こすこともあり、激しい高張性脱水症や痙攣、脳炎・脳症などの症状がまれに起こるとされており、小児の急性脳炎・脳症の原因を見ると、ロタウイルスはインフルエンザウイルスとヒトヘルペスウイルスに次ぐ第3位となっている。
しかし、現在は抗ウイルス薬などの特殊な治療法はなく、対症療法が中心。基本的には水分補給と電解質の補正を行いながら、軽症から中等症では経口補液と食事療法、重症では点滴による補液などを組み合わせている。
「整腸剤や解熱剤も使いながら、簡単に言えば、治るまで待つということ。それでも、日本では治る人が多い。ただし、小児自身の疾病負担のみならず、公衆衛生や医療経済の観点から、予防することの重要性が生じている」(森岡主任教授)。
ロタウイルスワクチンが2011年に導入される前のデータによると、日本では小学校入学までに約2人に1人がロタウイルス胃腸炎によって外来を受診。そのうち、5歳までに15~43人に1人が入院をしており、入院を要する下痢症の患者の中でロタウイルス胃腸炎が占める割合は約42~58%となっている。
また、欧州7カ国のデータによると、ロタウイルス胃腸炎による保護者への影響として、仕事を休む日数(平均)は、小児が入院(2.3~6.4日)、救急外来受診(2.5~4.4日)、外来受診(3.4~7.5日)といずれのケースでも何日間か休む必要が生じている。それに伴い両親のストレスレベル(1=ストレス無し~10=重度のストレス)も、小児が入院(5.3~9.0)、救急外来受診(4.5~8.6)、外来受診(4.8~8.4)と、保護者はかなりの負担を強いられていることが分かる。森岡主任教授は「日本では18年の厚労省のデータによると、0歳児で45%、7~8歳児になると77%の母親が就業している。共働き家庭の増加が、より負担増につながっている」と説明し、ロタウイルス胃腸炎による保護者の経済的損失(医療費以外の間接負担)は、1家族あたりの外来受診による経済負担が約2万5000~4万5000円、労働損失日数は2.6日と決して少ないものではなく、日本全体の総疾病負担額は年間約540億円と推計されているとした。
一方、ロタウイルスワクチンは11年11月に「ヒトロタウイルスワクチン」(GSK、ロタリックス)、12年7月に「5価ウシ・ヒト組換えロタウイルスワクチン」(MSD、ロタテック)の2種類が国内で発売されている。いずれも経口接種の弱毒生ワクチンである。森岡主任教授は3歳未満の重症ロタウイルス胃腸炎発症率(新潟県新発田市)や感染性胃腸炎患児の人数(兵庫県神戸市)が減少している事例などを紹介。「最近の傾向としては、5歳以上のロタウイルス胃腸炎の罹患割合が増えている。これは、乳児の時にワクチンが無かった、もしくは接種率がまだ低かった世代だ。0歳児や1~4歳児は減ってきているので、ワクチンの影響の差が出ているとみられる」と話した。
以上のような背景を踏まえ、20年8月1日以降に生まれた乳児を対象として、10月1日からロタウイルスワクチンの定期接種が開始された。前述の2種類のワクチンが用意されており、「ヒトロタウイルスワクチン」は出生6週0日後から出生24週0日後の間に27日以上の間隔をおいて2回経口接種、「5価ウシ・ヒト組換えロタウイルスワクチン」は出生6週0日後から出生32週0日後の間に27日以上の間隔をおいて3回経口接種となっている。また、医療機関によっては1種しか実施していないところもあるため、原則として同一ワクチンの接種だが、1回もしくは2回投与後に転居等のやむを得ない事情がある場合には、2種のワクチンを組み合わせることも認められている。「ただし、ロタウイルスワクチンには副反応として腸重積症を発症するリスクがある。初回接種の時期が遅くなればなるほど、そのリスクが少し高まるので、安全性の観点からも、14週6日までに初回接種を完了させることが望ましい。そして、接種後に血便や嘔吐など腸重積症の疑いがある症状が出た場合には、速やかに医師の診察を受けてほしい。小児科医もしっかりと知識を持って、早期発見・早期治療をして、悪化のないように努めたいと思う」(森岡主任教授)とした。
■行政トピックス
1.副反応部会・安全対策調査会合同開催 9月25日
HPVワクチン接種希望者に情報をしっかり届ける
厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会および薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催)は9月25日、HPVワクチンの情報提供のためのリーフレット改訂について議論した。最終的な修正を部会長に一任、リーフレットは自治体から関係する家庭に個別送付される。
新リーフレットは(1)HPVワクチン接種の対象年齢者およびその保護者向けに、情報を端的にまとめた「概要版」および、より詳しい情報を盛り込んだ「詳細版」(2)接種者およびその保護者向けに、接種後の留意点等をまとめたもの(3)接種に関係する医療従事者向けのもの-の3種類。
厚労省は、2018年1月から旧リーフレットを用いて情報提供を行ってきたが、自治体および国民への調査の結果、国民に情報が十分に行き届いていないことが分かり、今回大幅な見直しが行われた。
最大のポイントは、現在の接種者・保護者向けリーフレットにある「HPVワクチンは、積極的におすすめすることを一時的にやめています」との文言を削除したこと。ただ、接種後に出現する広範な疼痛、運動障害について現在専門家の間で検討中であり、積極的な勧奨(個別に接種を勧める内容の文書を送付すること)を一時的に控えているのが現状だ。
このため厚労省は、情報提供に当たって、積極的な勧奨とならないよう、個別送付する資材に接種を勧める内容を含めないことに留意した。その結果、前回会合(20年7月17日)では、「このご案内は、小学校6年~高校1年相当の女の子やその保護者の方に、子宮けいがんやHPVワクチンについて知っていただいた上で、希望される方に接種していただけるよう、おすすめするお知らせをお送りするのではなく、みなさまに情報をお届けするものです」との代替案を提示。
しかし、「情報が詰め込まれ過ぎているため、2文に分けてはどうか」等の意見が出たため、この日、厚労省は「このご案内は、小学校6年~高校1年相当の女の子やその保護者の方に、子宮けいがんやHPVワクチンについてよく知っていただくためのものです。おすすめするお知らせをお送りするのではなく、HPVワクチンの接種を希望される方が受けられるよう、みなさまに情報をお届けしています」との修正案を提示した。これに対しても「おすすめするお知らせをお送りするのではありません。と区切って3文にするべきではないか」といった意見が出たため、最終的に若干修正が加えられる可能性がある。
新リーフレットはHPVワクチンのリスクについて「多くの方に、接種した部分の痛みや腫れ、赤みなどの症状が起こることがあります。筋肉注射という方法の注射で、インフルエンザの予防接種等と比べて、痛みが強いと感じる方もいます」などと記載。委員からは、「痛み止め」の投与に関する記載を加えるべきではないかとの意見が出され、厚労省は「医師の判断で、医師が必要だという方に投与すること自体を否定するわけではないが、予防接種健康被害救済制度との関係で、痛み止めによって健康被害が出たときにどう対応するかなど、国が勧めるとなるとクリアしなければならない論点が幾つかある」として盛り込むかどうかの判断を保留した。
このほか、新リーフレット(詳細版)では、「HPVワクチンのはじまりと世界での状況」として、「世界保健機関(WHO)が接種を推奨しており、現在では100カ国以上で公的な予防接種が行われています。イギリス、オーストラリアでは接種率は約8割です」と紹介している。
2019年11月22日の合同会合では「日本において極めて低い接種率が、今後もさらにずっと続いていくということは、国民にとって大きな不利益である」との意見が委員から示されるなど、今後、積極的接種勧奨の再開に向けた議論を始める流れにある。
■行政トピックス
2.医療用から要指導・一般用への転用評価検討会議 9月24日
規制改革推進会議の批判受け会議運用見直しも検討課題
厚労省医薬・生活衛生局の「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」は9月24日、11回目の会合を開き、年内の「中間とりまとめ」に向け、印南一路慶大総合政策学部教授・医療経済研究機構副所長兼研究部長ら外部有識者からヒアリングを行った。
中間とりまとめは、これまで学会や団体、企業、一般消費者等から要望が寄せられたスイッチOTC化候補成分に関する同評価検討会議による妥当性の評価において、論点や課題として挙げられた事項を整理し、今後のスイッチOTC化に関する議論を効果的・効率的に行うことを目的としたもの。
同検討会議では、個別の成分のみならず、成分横断的に共通の課題や、成分そのものではなく、環境的な要因による課題も挙げられてきた。そうした課題等の解決に向け、各ステークホルダーが果たすべき役割を整理していく。ヒアリング結果も中間取りまとめに反映させる。
同評価検討会議は2016年4月にスタート。複数のスイッチOTC化候補成分が議題となったが、PPIや緊急避妊薬などは見送られた経緯がある。これを踏まえ、規制改革推進会議は20年7月20日に取りまとめた答申の中で、同評価検討会議の設置目的と実績との落差に苦言を呈し、メンバー構成が医師に偏っており、人数的に消費者代表が少ないことや、全会一致だと医師に拒否権を与えることになるなどと批判、運営面での見直しを求めた。
規制改革推進会議の医療・介護ワーキング・グループ専門委員を務めている印南氏は、「2014年に日本再興戦略でスイッチOTCの促進が提案されてから6年たっている。その間に実績ベースで見て、承認数が少ないのではないかというのが認識の出発点になっていると思う。若干しびれを切らしているのが正直なところではないか」と私見を述べた。
規制改革推進会議答申の中間取りまとめへの反映について厚労省医薬品審査管理課では「一定の対応を求められたこともあるので、その流れの中で運用の改善あるいは議論の進め方の改善についても当然出てくることと思う」と説明した。
なお、ヒアリングで印南氏は、私見として▼公的医療保険の持続可能性の観点からスイッチOTC問題を捉え直す余地があるのではないか▼医療(保険給付)の必要性の低い医薬品(効能・用法用量)を特定し、「保険外併用療養費対象」とするか「スイッチOTC化候補リスト」に挙げるべきではないか。この場合もかかりつけ医の関与を維持すべき▼診療報酬で「一般薬指導管理料」を新設すれば、現場の医師は医療用医薬品だけでなく全ての医薬品についてかかりつけ医の立場として患者にベストなものを勧めることができるのではないか-などと提案した。
次回12回目には、厚労省から中間とりまとめ案が提示される予定で、13回目で最終化する予定である。