■セミナー便り
1.抗てんかん薬の添付文書改訂へ
-自治医科大学脳神経外科学:川合謙介主任教授-
自治医科大学脳神経外科学の川合謙介主任教授は2月21日、UCBジャパン主催のメディアセミナーで講演し、「いま厚労省やPMDAと一緒に抗てんかん薬の添付文書の改訂を進めている。要は、きちんと発作がコントロールされていて副作用がない人には運転は禁止しないという形で書かれるように作業をしているところだ」と話した。川合教授は日本てんかん学会の法的問題検討委員長を務めている。
抗てんかん薬の薬剤添付文書の「使用上の注意」には一律に「眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがあるので、本剤投与中の患者には自動車の運転等、危険を伴う機械の操作に従事させないよう注意すること」とある。
日本てんかん学会は、この記載は抗てんかん薬を服用するすべての患者に適用されるのではなく、自動車運転に支障を来す副作用が生じていると考えられる患者にのみ適用されるべきであるとしており、医療の現状や科学的根拠、行政、法律など多角的な視点に基づいて、早急に見直されるべきとしていた。
また、てんかん発作と自動車運転に関する動向として道路交通法第90条の運用基準にも触れた。第90条には「発作により意識障害または運動障害をもたらす病気にかかっている者については、政令の基準に従い、免許を与えない」とあり、運用基準によって免許の拒否を行わない場合が定められている。てんかんの場合、てんかんと診断されていても「正常な運転ができないおそれがある状態にならない人」は免許を取ったり更新し運転することができる。そのために必要な最低条件は「目覚めている間に意識や運動が障害される発作が2年以上ないこと」である。
これについても川合教授は「警察庁と一緒にデータを取って1年と2年ではほとんど影響がないくらいの差しかないことが分かってきたので、これも1年としていいのではないか。ただ、アメリカやヨーロッパの場合、もっと細かい状況を設定しているので、そういうような形に運用基準を変えていってほしいと警察とお互いにやっていこうとしている。だから今後これも変わっていく可能性がある」とした。
てんかん発作と自動車運転を巡っては、11年4月の栃木県鹿沼市でのクレーン車暴走事故や12年4月の京都市での軽ワゴン車暴走事故といった大事故があった。川合教授によると、てんかん発作による事故は(1)治療開始前(初発時など) (2)運転適性はあるが発作再発(いまの2年の制度できちんと治療しているけれども確率の問題として再発してしまう) (3)運転適性なく発作再発(運転適性がないのに運転していて発作が再発する)―という3つのケースがある。
治療開始前のケースがてんかん発作による事故の3分の1を占めることが推計されているが、残りの2つのケースの割合は分かっていない。そのため川合教授は「警察とてんかん学会とで個別重大事故案件の医学的検討に踏み込んでいかないとこういうことは分からないので、それを検討しているところだ」とした。
なお、てんかん発作は、自動車運転に必要な外界に対する反応・判断・動作を障害するので、発作が起きると事故につながる可能性がある。
川合教授によると、15年度警察庁委託調査研究報告書では、てんかん患者で運転する人の10~12%が運転中の発作を経験し、そのうち自損事故を含めて3分の1が事故につながった。すなわち運転する人の3~4%が運転中の発作による事故を経験している。
14年度警察庁委託調査研究報告書では、てんかんのある人の事故リスク比を健常人の事故リスク比と対比すると、健常人を含む全運転者を1.0として、無発作3年間で1.09、無発作2年間で1.16、無発作1年間で1.23、無発作6カ月で1.38、健常人の75歳以上で2.78、65歳以上で1.53、60歳以上で1.32、20歳代男性で1.70となっている。
無発作2年で運転可能という根拠もこうしたリスク比に関する調査などを基にしている。
なお、もしてんかんと診断され、治療を開始する時には、服薬指導、生活指導、妊娠に関する説明を医師から受けておく必要がある。医師も (1)小児ローランドてんかんなど特発性てんかんを除き一生の服薬が必要な可能性が高いこと (2)規則正しい服薬が必要なこと (3)発作を誘発しやすい因子として怠薬、睡眠不足、疲労蓄積、発熱時、月経があること (4)自動車運転の制度(申告の必要、2年間の無発作で免許取得可) (5)自立支援制度、精神障害国民年金、手帳制度といった社会福祉制度 (6)抗てんかん薬の副作用(中枢抑制、催奇形性、アレルギー)を説明しなければならない。
とはいえ、川合教授は「すべて説明していると1時間くらい簡単にかかってしまうので、残念ながら日常の診療で十分に行き渡っていないところがある」と課題を指摘。啓発の重要性を語った。
■セミナー便り
2.ファセンラ、重症喘息の症状改善に期待
-国際医療福祉大学:足立満教授-
アストラゼネカ(AZ)は2月26日、難治性気管支喘息の適応で承認を取得したファセンラ(ベンラリズマブ)に関するセミナーを開催した。
ファセンラは好酸球の細胞表層に発現しているIL-5受容体αサブユニットに結合するモノクローナル抗体。IL-5Rαに結合するとADCC活性によりNK細胞を誘導して好酸球を直接的に除去する。国際医療福祉大学臨床医学研究センターの足立満教授はAZが実施したグローバル第3相CALIMA試験の日本人サブ解析において、年間喘息増悪率をプラセボに対して83%有意に抑制し、同じくグローバル第3相ZONDA試験では経口ステロイド薬の1日用量をベースラインから75%減少させたこと、副次的エンドポイントでは喘息に伴う年間の緊急受診や入院が(対プラセボで)約9割減少したことを紹介し、先行薬剤には無いデータだと評価した。さらに有害事象の発現頻度はプラセボと同程度だったと示し、「モノクローナル抗体に付きものであったアナフィラキシー反応は報告されていない」と副作用の面からも期待を見せた。同剤は初回から3回目までは4週間隔、以降は8週間隔で皮下投与する。その優位性について、通院回数が減るのは患者にとって大きなポイントとなり、針刺し防止機能付きプレフィルドシリンジは注射を簡便にし、コメディカルにとって大きなポイントになる、と述べた。重症喘息の適応を持つ生物学的製剤にはゾレア(オマリズマブ)とヌーカラ(メポリズマブ)がある。ゾレアはIgE抗体で2または4週間ごと、IL-5リガンド抗体のヌーカラは4週間ごとにいずれも皮下投与する。
IL-5の受容体とリガンドをターゲットにするファセンラとヌーカラの違いについては、ファセンラはNK細胞を誘導して好酸球をダイレクトに破壊することが大きいとしたうえで、この2剤を直接比較した試験はないものの、単回投与での末梢血中の好酸球数の減少などを比較すると、ヌーカラよりもファセンラの方がより早く、有効に好酸球を除去することが分かっている、と回答した。
さらに、すでに臨床で使っているヌーカラに著効例があることから、「ヌーカラより強いファセンラがどのようになるのか非常に興味がある」とも述べた。
同じく講演した近畿大学医学部附属病院の東田有智病院長は、ファセンラの適切な導入が好酸球性重症喘息患者のコントロール改善に繋がると評価する一方で、今の重症難治性の喘息治療は対症療法で終わっていることを指摘、ヌーカラ、ゾレアでの先行例も含めて、「このような分子標的薬には必ずスーパーレスポンダーが出てくる。それはIL-5だけの作用ではないように思う。そうした作用を見つけ出し、また逆に効かない人はなぜ効かないのかを分析するべきだ」と述べた。東田病院長は効果の出る人は3分の2から4分の3くらいだろうと見込む。そして「抗IgE抗体、IL-5(R)抗体を併用した試験は絶対にやるべきで、それを病態解明に繋げることで治癒をもたらす薬剤が開発できる。そういう面では遅れている」と今後の課題を提起した。
■記者会見
1.イノベーションの評価に政策上の矛盾
-ファイザー日本法人:原田明久社長-
ファイザー日本法人の原田明久社長は3月1日、同社の業績記者会見において、今回の薬価制度改革について、政策上の矛盾があるとの見方を示した。
原田氏は、「日本のイノベーションを支えるには、研究、知財、薬事審査の機能が重要」とした。
日本では、3つの省庁のライフサイエンス予算をまとめ、基礎研究を強化し、実臨床に結びつけるイノベーションを起こす重要な機関としてAMEDが設立され、また、産官学連携も進み、ライフサイエンスのイノベーション推進が図られている。知的財産という観点では、日本の知財の審査の質が高く、権利の取得を高い予見性をもって行うことができる。最近はAIビッグデータの技術革新の知財保護についても積極的に取り組んでいる。さらに、薬事審査においては、革新的医薬品のファーストトラック制度が整備された。再生医療分野でも、日本が最も革新的な審査制度で、多くの海外ベンチャーがPMDAへ審査の打診があるなど、審査体制もイノベーションに欠かせない国際競争力をもっている。原田氏はこうした日本の体制を評価する見方を示す一方で、今回の薬価改定では、革新的医薬品の開発の結果としてイノベーションの評価に繋がらないような定義がみられるとし、その例として、新薬創出等加算品目の新たな要件に入った「1番手の収載から3年以内に収載された3番手以内の品目」といった設定を挙げた。その上で、「日本ではイノベーションをサポートする3つの機能が整っているにもかかわらず、最後の出口のイノベーションの評価で、大きな乖離、政策上の矛盾がある。革新的な医薬品を日本の患者に届けるためには、薬価だけではなくて、医療全体を俯瞰した議論と、一貫した政策の実行が求められる」と訴えた。
さらに「ファイザーでは、日本は研究機関も知財も薬事審査においてもイノベーションをサポートできているとの認識に立ち、開発もすべてグローバルトライアルで進めていくという姿勢でいた。しかし、今回の薬価制度のメッセージは少し違う」と不満を示した。
なお、同社では、薬価制度を含む医療の環境変化に柔軟に対応していくために、昨年12月に、コーポレートアフェアーズ・ヘルスアンドバリュー本部を新設。医療技術評価(HTA)・医療経済評価(HEOR)・リアルワールドデータからデータを送出し、患者のQOLの改善、医薬品の社会的価値の数値化を目指している。原田氏は「革新的医薬品が、患者の生活にポジティブなインパクトを与えたか、患者が社会復帰し、社会に貢献することのベネフィットを含めて数値化する。薬価制度改革を受けて、パイプラインの段階からそういう議論をしていかなければいけない状況にある」として、データに基づく価値創出を戦略として組み入れ、コマーシャル戦略の立案や薬価交渉に活用していく方針を明らかにした。