■セミナー便り
1.BRCA検査、遺伝医療との連携は「譲れない」
-札幌医大医学部遺伝医学:櫻井晃洋教授-
札幌医科大学医学部遺伝医学の櫻井晃洋教授は7月3日、アストラゼネカ主催BRACAnalysis診断システムのメディアセミナーで遺伝カウンセリングの重要性を指摘。「検査が陽性なら期待していた薬を使えるが、遺伝性腫瘍の当事者として色々な心配事や悩み事が同時発生してくる」とした上で検査は原則、遺伝カウンセリング加算の施設基準にかかわる届出を行っている保険医療機関で実施するとし「そうでない場合でも、遺伝の問題について連携できる遺伝医療部門を事前に確保した上で検査を行う。ここは私からすれば譲ってはならない点だ」と強調した。
乳がんには様々なタイプがあり、ホルモン受容体(エストロゲン受容体(ER)やプロゲステロン受容体(PR))陽性の転移・再発乳がんはホルモン療法、HER2陽性の転移・再発乳がんは抗HER2療法が行われる。ER、PR、HER2が陰性の乳がんはトリプルネガティブ乳がんと呼ばれ化学療法が行われる。ここに新たにBRCA遺伝子変異というバイオマーカーが加わり、BRCA遺伝子変異陽性の転移・再発乳がんに対するアストラゼネカのPARP阻害剤リムパーザ(オラパリブ)が使用可能になった。
一方、BRCA遺伝子変異はリムパーザの適応可否を判断するバイオマーカーであるというだけでなく、これが陽性であるということは遺伝性腫瘍の一つである遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)ということになる。HBOCは遺伝性腫瘍の中で最も頻度が高く、一般人口の中での割合は200人に1人と推計されている。全乳がんの3~5%、全卵巣がんの10~15%を占める。
櫻井教授は「遺伝性と診断されるといつまでも再発のリスクがある。子供や他の家族にも関係している。患者は様々な心理的な葛藤を持つ」と解説。▽主治医が積極的に遺伝学的検査にかかわる必要がある ▽遺伝の問題について連携できる遺伝医療部門を事前に確保する▽乳がん患者では薬剤の説明が第三者に聞かれることで遺伝性乳がんであることが判明するため処方薬局での薬の説明や病院での服薬指導などでも配慮が必要などと留意すべき点を述べた。
アストラゼネカによると、転移・再発乳がんと新たに診断される患者は国内で年間1万人。そのうちHER2陰性の患者がBRACAnalysis診断システムの検査を受ける可能性があることから年間最大9000人が検査の対象になるという。
■セミナー便り
2.妊娠可能性など「一人一人にチーム医療で対応」
-北里大北里研究所病院:日比紀文IBDセンター長-
北里大北里研究所病院炎症性腸疾患先進治療センターの日比紀文センター長は7月2日、ファイザー主催の潰瘍性大腸炎に関するメディアセミナーで、生物学的製剤やJAK阻害剤の登場により「完全に炎症をなくす寛解導入をし、炎症がなくなったら安全に寛解維持を続け、日常生活を可能にするという時代になってきたと思う」と治療方法が進展してきたことを語った。
潰瘍性大腸炎は炎症性腸疾患の一種で、大腸の粘膜に炎症が起こり、びらんや潰瘍を形成する疾患。粘血便や下痢、腹部不快感、腹痛などが症状としてある。国内患者数は約17万人。若年に発症することが多く、受験、入社、結婚、出産、育児に影響を与える。難治性疾患といわれ根本治療はまだないが、日比センター長は「うまく治療すれば難治性の疾患ではなくなりつつある」と述べた。
その上で「患者によって炎症の種類や程度が違う。それに合った治療を行わないといけない。かなりきめ細やかに患者一人一人のことを考えないといけないので、チーム医療を含めたテーラーメードメディスンが必要になってきた」と解説。例えば、ゼルヤンツは妊婦または妊娠している可能性がある婦人に対して禁忌となっている。日比センター長は「妊娠を考えた場合にどうするのかはなかなか外来で話に出てこない。女性は女性で悩むことがあるし、男性は男性で悩むことがある。我々の所では看護師が間に入って話を聞いたり、メールで問い合わせが来ればそれに対して返事をする。それが薬剤師の問題なら薬剤師が正確に答える」とチーム医療による対応を示した。
セミナーでは治療薬の位置づけについて「5ASA製剤はやはり基本薬だ。寛解導入では、ステロイドは長期で使用すると色々な副作用が出るが、短期では非常に強力な薬だ。禁忌でない方はステロイドを使って、うまく炎症が抑えられたら5ASA製剤を使うのが基本だ。それでコントロールできない方が炎症を完全になくすことができるようになったのが生物学的製剤であり、経口の低分子のターゲットを絞った治療薬(JAK阻害剤ゼルヤンツ)ではないかと思う」とした。
■セミナー便り
3.神経学会、「てんかん診療ガイドライン」を改訂
-福島県立医大:宇川義一教授-
福島県立医大神経再生医療学講座の宇川義一教授は7月2日、大塚製薬・ユーシービージャパン主催のてんかんプレスセミナーで、8年ぶりに改訂された日本神経学会の「てんかん診療ガイドライン2018」について、主な変更点を説明した。
「GL2018」で示された新規発症の部分てんかん、全般てんかんの選択薬を表にまとめた。部分てんかんの第一選択薬には、「GL2010」はカルバマゼピンのみだったのが、ラモトリギン、レベチラセタム、ゾニサミド、トピラマートが加わった。第二選択薬については、「幾つかあって、その中でもラコサミドとか、ペランパネルとか、この数年で発売されたものが、入ってきている」と解説した。
一方、全般てんかん(全般性強直間代発作)については、第一選択薬は「GL2010」と同様にバルプロ酸。ただし、「妊娠可能年齢女性ではバルプロ酸以外の薬剤治療を優先する」と明記された。第二選択薬については、ラモトリギン、レベチラセタム、トピラマート(国内では全般発作は未承認)、ゾニサミド、ペランパネルが加わっている。
なお、厚労省の説明によると、部分発作は、脳波上の異常波および発作症状の起始が脳の一定部に限局する発作であり、対応する部位のけいれん、精神症状、記憶障害等の症状が認められる。一方、強直間代発作は、発作の起始から発作発射が脳全般に及ぶ全般発作のうち、意識消失とともに全身の左右対称性の強直性の痙攣を生じ、その直後に全身の筋肉の収縮と弛緩を律動的に反復する発作である。部分発作の患者数が最も多く、強直間代発作の患者数は、部分発作の患者数の3~4割程度(2011年厚労省患者調査)。
■セミナー便り
4.サーティカン肝移植へ「待ちに待った薬」
-日本移植学会:江川裕人理事長-
「ラパマイシンはロシュの方針で日本で売っていない。そこにようやくエベロリムスが使えるようになった」。日本移植学会の江川裕人理事長は6月8日、ノバルティスファーマ主催のメディアセミナーで講演し同社のmTOR阻害剤サーティカン(エベロリムス)が肝移植における拒絶反応の抑制に適応拡大したことについて「待ちに待った薬」と話した。国内では心移植や腎移植への適応はあったが、2月に肝移植へ適応拡大した。
日本移植学会によると、脳死肝移植を希望して日本臓器移植ネットワーク(JOT)に登録した2691人(累計登録)のうち、17年10月時点で1129人が死亡し、34人が海外での肝移植、464人が生体肝移植、439人が脳死肝移植を受けた。国内における移植後生存率は「世界でトップレベル」だが移植手術にたどり着くことが難しい。今後、脳死肝移植の症例が増えていくと予想されている中、症例数の増加に向けて江川理事長はJOTの運営費や人材の確保が必要だと語った。
■行政トピックス
1.未承認薬・適応外薬検討会議 7月4日
アザチオプリン、テモゾロミド適応追加の公知申請を了承
厚生労働省の「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」は7月4日、アザチオプリン(アスペンジャパンのイムラン錠、田辺三菱製薬のアザニン錠)の「自己免疫性肝炎」の適応追加および、テモゾロミド(MSDのテモダールカプセル、同点滴静注用)の「再発・難治性ユーイング肉腫」の適応追加について、メーカーが公知申請しても差し支えないと判断した。これにより、7~8月に開催される薬食審医薬品部会において事前評価が終了した段階で、薬事承認を待たずに保険適用となる。
アザチオプリンの「自己免疫性肝炎」の適応追加については、日本肝臓学会の要望を受け、同会議が適応疾病の重篤性および医療上の有用性の観点から「医療上の必要性が高い」と判断。これを受け、メーカーは公知申請を希望していた。同会議では、公知申請への該当性を評価し、欧州などでの承認状況、国内外のガイドラインの記載内容や公表文献などを基に、「医学薬学上公知と判断する」と結論づけ、公知申請を認めた。
同会議は、「効能・効果」は「自己免疫性肝炎」、その「用法・用量」は「通常、成人および小児には、1日量としてアザチオプリン1~2mg/kg相当量(通常、成人には50~100mg)を経口投与する」とすることが適切と考えるとした。
一方、テモゾロミドの「再発・難治性ユーイング肉腫」の適応追加については、日本小児血液・がん学会が要望。同会議は適応疾病の重篤性および医療上の有用性の観点から「医療上の必要性が高い」と判断。メーカーは公知申請を希望していた。同会議は、公知申請への該当性を評価し、公表論文および診療ガイドライン・教科書などへの記載状況から、公知申請を認めた。
「効能・効果」は「再発または難治性のユーイング肉腫」、その「用法・用量」は、カプセル剤、点滴静注用ともに「イリノテカンとの併用において、通常、テモゾロミドとして1回100mg/m2を1日1回連日5日間投与(カプセル剤の場合は経口投与)し、16日間以上休薬する。これを1クールとし、投与を反復する。なお、患者の状態により適宜減量する」とすることが適当と考えるとした。
このほか、各ワーキンググループから、リツキシマブの「血栓性血小板減少性紫斑病」(要望者:日本血液学会)▼ミダゾラムのシロップ剤の「麻酔前投薬」(日本小児麻酔学会)▼フルダラビンとG-CSF製剤(レノグラスチム、フィルグラスチム)併用の「再発・難治性急性骨髄性白血病(小児・成人)」▼β-グルコロニダーゼの「ムコ多糖症Ⅶ型にみられる諸症状の改善。特に、6分間歩行距離の延長、努力肺活量の改善(FVC%)、関節可動域の改善」(日本先天代謝異常学会、ムコ多糖症患者家族の会)▼コール酸の「先天性胆汁酸代謝異常症」(日本小児栄養消化器肝臓学会、日本先天代謝異常学会)-について、適応疾病の重篤性および医療上の有用性の観点から「医療上の必要性が高い」と報告され、メーカーに対して開発要請することが決まった。