■セミナー便り
1.抗PCSK9抗体がアンメットニーズを解消
-帝京大病院臨床研究センター:寺本民生センター長-
「スタチン薬で救われた患者は多いが、まだまだ十分でない患者がいることも確か。そこでプラルエントのような抗PCSK9抗体を使うことは非常に理にかなっている」と語るのは帝京大学医学部付属病院臨床研究センターの寺本民生センター長・特任教授。7月12日のサノフィ主催プレスセミナーで「高コレステロール血症治療におけるアンメットメディカルニーズと課題」をテーマに講演した。
日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン(2012年版)」によると、LDL-コレステロールの管理目標値は、冠動脈疾患の既往がある患者の二次予防では100mg/dl未満。心血管系高リスク(糖尿病、慢性腎臓病、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患のいずれかがある場合)患者の一次予防では120mg/dl未満となっている。
寺本氏は、「80mg/dlを閾値として冠動脈疾患が有意に上昇するという国内データがある」と説明した上で、「少なくとも100mg未満、大体80mgくらいを目指して下げていくことが恐らく重要なんだろうと思われていて、来年改訂されるガイドラインでは、そういった方向が打ち出される可能性が十分ある」と見通した。
寺本氏らは、全国15施設において09年4月~12年3月までにスタチン薬を3カ月以上服用し、かつLDL-Cを測定した患者6789例を対象に、電子カルテシステムを元に管理目標値達成率を研究。それによると、二次予防の目標値(100mg/dl未満)達成率は62.4%にとどまった。また、高リスク一次予防の目標値(120mg/dl未満)達成率は、糖尿病72.7%、慢性腎臓病69.6%、非心原性脳梗塞78.3%、末梢動脈疾患76.7%となり、いずれも20%以上の患者が未達成だった。
LDL受容体を破壊する酵素であるPCSK9を抑え、LDL受容体の働きを高めるのが抗PCSK9抗体である。スタチン薬は、コレステロールの合成を抑えることによってLDL受容体の合成を高めることで効果を発揮するが、スタチン自身にはPCSK9の合成を高めてしまう負の側面もある。寺本氏は、そこに抗PCSK9抗体を上乗せすることは非常に合理的であると説明した。
プラルエントの国内第3相臨床試験では、投与4週時にはLDL-Cの急速な低下が認められ、52週時点で、プラセボ群に対して58.9%有意に低下(ベースラインから62.5% 低下)。24 週時点のLDL-C管理目標達成率は、プラセボ群の10.2%に対し、96.7%と圧倒的な効果を示した。安全性については、注射部位反応が10.5%と、プラセボ群(2.8%)に対し若干多かった。
サノフィの抗PCSK9抗体プラルエントは7月4日に国内承認を取得、8月の薬価収載が見込まれている。同じ抗PCSK9抗体のレパーサが今年4月にアステラス製薬から発売されている。
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2.放射性医薬品ゾーフィゴ、OSを有意に延長
-横浜市立大センター病院:上村博司部長-
前立腺がんは骨に転移しやすく、骨の管理が非常に重要―。横浜市立大学付属市民総合医療センター泌尿器・腎移植科の上村博司部長・教授は7月13日、バイエル薬品主催のプレスセミナーでこのように述べ、去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)に対する国内初のアルファ線放出医薬品ゾーフィゴに期待を示した。
前立腺がんは、多発性骨髄腫(骨転移あるいは骨病変発現率95~100%)に続き、乳がん(65~75%)と並んで高頻度で骨に転移することが知られている。「CRPCになると90%くらい骨に転移がある」という。骨に転移した場合の生存期間は40カ月と、多発性骨髄腫の20カ月や乳がんの24カ月などに比べて長いことが特徴だ。
CRPCに対する薬物治療は、以前は抗がん剤のドセタキセル(先発品タキソテール)が中心だったが、14年にアビラテロン(ザイティガ)、エンザルタミド(イクスタンジ)という2つの新規ホルモン剤、さらに抗がん剤カバジタキセル(ジェブタナ)が相次ぎ発売。がん骨転移に対しては、ゾレドロン酸(先発品ゾメタ)、デノスマブ(ランマーク)といった選択肢があり、そこに今回新たにゾーフィゴが登場した。
有効成分の塩化ラジウム-223は、カルシウム類似体であり、骨転移部位に選択的に取り込まれ、そこから高エネルギーのアルファ線を放出することで、抗腫瘍効果を示す。CRPC患者を対象とした国際共同第3相試験(ALSYMPCA)では、6回投与(4週間隔)により、全生存期間(OS)をプラセボ群に比べ有意に延長した。
安全性については、貧血(18.3%)、血小板減少症(7.0%)、好中球減少症(3.8%)といった血液学的毒性が見られたが、「抗がん剤と比べると微々たるもの」。非血液学的毒性は、悪心(20.8%)、下痢(16.7%)、骨痛(15.8%)、疲労(12.2%)などが見られたが、「プラセボと比べてそれほど多いというわけではない」という。
上村教授は「骨転移があって痛みが出る、あるいは痛みが出るちょっと前くらいから早期にゾーフィゴを使い、6回投与できれば、患者に大きな生存ベネフィットが与えられるのではないか」と期待を表明。「新規ホルモン剤の投与で、いったんPSAが下がって、また上がってきた時点で早めに使う。新規ホルモン剤との併用で、6回投与ができるのではないか」と続けた。
上村教授によると、アビラテロンやエンザルタミドとの組み合わせ、また、デノスマブやゾレドロン酸との組み合わせで生存期間の延長が予想されており、進行中あるいは計画中の臨床試験の結果が期待されているという。
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3.カヌマに成人患者の予後改善も期待
-慈恵医大消化器肝臓内科:天野克之診療医長-
アレクシオンファーマ主催のメディア向けセミナーで、東京慈恵会医科大学附属病院消化器肝臓内科の天野克之診療医長は「ライソゾーム酸性リパーゼ欠損症(LAL-D)の臨床像と治療」と題して講演を行い、LAL-D治療薬カヌマ(セベリパーゼアルファ)について、「病気の性質を考えると成人の場合でも予後の改善が期待できるのではないか」との見解を示した。
カヌマは生後6カ月の乳児LAL-D患者を対象としたLAL-CL03試験で生後12カ月時点での生存率の改善が見られたが、小児および成人のLAL-D患者を対象としたLAL-CL02試験では主要評価項目が肝機能の改善だったため生存に関するデータはなかった。
LAL-DはLALという酵素の活性が先天的に低下・欠損する希少疾患で、乳児型はWolman病、遅発型はコレステロールエステル蓄積症と呼ばれる。患者数は国内数十例程度という。肝臓にトリグリセリドやコレステロールエステルが蓄積し、患者は肝硬変を起こしたりして亡くなる場合が多い。これまで根本的な治療はなく、食事制限やスタチン療法など、進行した患者には肝移植や造血幹移植を行っていた。ただ、予後が悪く、新しい治療選択肢が求められていた。そこにカヌマが登場した。カヌマはマンノース-6リン酸受容体を介して細胞に取り込まれライソゾームに運ばれコレステロールエステルやトリグリセリドを加水分解する。
講演では薬価にも言及。カヌマ点滴静注液20mgは1バイアル127万7853円で、体重1kgあたり1mgを2週に1回投与する。天野診療医長の患者は体重が約60kgで、月750万円程度という。酵素補充療法のため使用し続けることになり高額にも見えるが、「2年に1回の薬価改定もあるし、いまの段階で生涯にかかる医療費を計算するのは適切ではない」と天野診療医長はコメントした。アレクシオンファーマによると、ピーク時(10年度)売上高は10億円、国内患者数は14人を見込んでいる。
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4.コネクテッド・ヘルスケアの未来を語る
-メディ・ウェブ:楊浩勇会長兼社長-
アイ・エム・エス・ジャパン主催のメディアセミナーで、メディ・ウェブの楊浩勇会長兼社長(スマイル眼科理事長)は、「診療現場から見た医療データの連携とコネクテッド・ヘルスケアの未来」をテーマに講演し、「医療分野で電子化が進み、情報が接続(コネクト)され、接続された情報を活用できるようになることは、医療の質と効率、安全性に対してのみでなく、健康増進と疾病予防にも貢献する」と強調した。
医療界では、ITを利活用した医療連携「コネクテッド・ヘルスケア(Connected Healthcare:接続された医療)」という言葉が聞かれるようになった。イメージは、医療機関(病院・診療所)、調剤薬局、製薬企業・医療機器等の医療周辺企業、健康保険組合・保険会社、スポーツジム等の健康関連企業の情報ネットワーク。
しかし日本の現実は、「病院向け電子カルテ普及率は、大規模病院(400床以上)69.9%、中規模病院(100~399床)34.0%と小規模になるほど低く、クリニック(診療所)の普及率はさらに下回る。クリニックの電子化の遅延が医療関連企業の非効率化の原因となっている」と指摘。電子化の遅れの原因について、「電子化しても期待していたほど業務効率化、診療の質の向上、医療全体の効率向上に生かされていない」など、電子化の動機付けの不足であることを挙げた。
しかし最近は、レセコン(診療報酬の計算と明細書作成)、電子カルテ(診療録の電子化)に次ぐ「第三のクリニック電子化」と期待され、業務と経営を支援するPMS(Practice Management System:診療業務支援ソフト)と呼ばれるアプリが普及し始めたと紹介。PMSは、予約・順番表示、患者(顧客)管理、経営分析の機能をもったソフト。楊氏のメディ・ウェブ社では、12年からこのPMS、診療業務支援クラウドサービス「3Bees」を開発・提供。登録施設数は4284(2016年6月末)で、検査会社のSRL、ニチイ学館など5社が協賛企業として参加しているという。
楊氏は、「PMSを通じて電子化が進むと、それらに他のアプリを“接続”して、患者の受診管理やアドヒアランス向上促進、検査システム等の連携を通じた患者自身による閲覧や活用、クリニックのさらなる業務負担軽減等を促すことも可能となる。さらに、医療機器、IoTなどによるデータ取得の増加、データ分析手法の進化、今後のAIの進化などによって、診療の支援、質の向上、医学の進歩が期待される」など、クリニックのICT化が進むと述べた。
また、「医療・製薬業界におけるこれからのデジタルテクノロジー活用の方向性とIMSのソリューション戦略」について説明した同社テクノロジー&サービスディレクターの住田真一郎氏は、「医療ビッグデータ時代に入り、データの多様性、量、発生頻度が拡大。これまでのような、臨床、処方、電子カルテ、検査、文献など部分最適されたシステムだけでは、データの増加に伴うビジネスの変革スピードに追従できなくなる」と指摘。あらゆるデータを単一のクラウドプラットフォーム上で統合し、分析エンジンによるこれまでにないインサイトを複数の業務エリアで享受できる「IMS One」などのソリューション戦略を紹介した。