■セミナー便り
1.「バイオシミラー使用促進で患者負担軽減を」
-厚労省:医療関係者向け講習会-
厚労省は10月27日、都内で医療関係者向け講習会「バイオ医薬品とバイオシミラー(BS)を正しく理解していただくために」を開き、BS使用による薬剤費軽減額の試算値を示した。一方で、高額療養費制度によって、必ずしも患者負担の軽減にはつながらない実態を提示した。講師を務めた京大医学部付属病院の米澤淳薬剤部副部長は「高い薬を長期間使い続けなくてはいけない患者に関しては、医療費が安くなる治療法を考えてあげないといけない。そのためには高額療養費制度をしっかり理解していないと患者に情報提供できない」と訴えた。
米澤氏が示した試算値によると、フィルグラスチムをがん化学療法における好中球減少症の患者(150cm、45kg)に対し、1クールで75μgを2回、初回から4クールで計8回投与した場合、BS使用による薬剤費軽減額は約2万7700円。
インスリングラルギンを糖尿病患者に対し、1日20単位、1カ月で30回投与した場合、BS使用による薬剤費軽減額は約1000円。米澤氏は「1000円しか減らないと思いがちだが、以前は世界売上げトップ10に入ったほどの薬なので、切り替えていくと大きな医療費の削減になる。患者自身も長期間使うので、負担減は喜ばれる」と指摘した。
また、エタネルセプトを関節リウマチ患者に対し、50mgを週に1回、1カ月に計4回投与した場合、薬剤費軽減額は約5万2200円。年間の薬剤費軽減額は約67万9224円(先行バイオ医薬品162万5104円-BS94万5880円)と試算され、3割負担の場合、患者負担は約20万3000円の軽減となるが、「高額療養費制度があるので、単純にそれだけ患者負担が減るというわけではない」と指摘した。
高額療養費制度とは、医療機関や薬局の窓口で支払った額が、1カ月で上限額を超えた場合に、その超えた金額を支給する制度。毎月の上限額は年齢(70歳以上/69歳以下)と所得水準によって異なる。例えば、70歳以上で年収約370万円~770万円の患者(3割負担)では、100万の医療費で、窓口負担が30万円かかる場合、高額療養費制度によって実際の自己負担額は8万7430円になるとした。また、世帯合算や多数回該当など、さらに最終的な自己負担額が軽減される仕組みがあることも紹介した。
「患者パネルを用いた関節リウマチ患者の実態調査(第3報 就労、医療費、情報収集の現状)」によると、患者が医療機関に望むことのトップは、「医療費が安くなる治療法や薬剤を教えてほしい」-。米澤氏はそう説明した上で、「エタネルセプトのBSは患者負担がすごく減るが、現在、新規受付が中止されている状況。インフリキシマブのBSでは患者負担は減らない」と指摘し、「その患者がうまく医療費が削減できるような形であれば、薬剤師としても積極的に提案してあげて、患者負担を減らしてあげられると思う」と述べた。
千葉大、浜松医大のBS導入事例
また、米澤氏は、千葉大医学部付属病院と浜松医大医学部付属病院におけるBSの導入事例を紹介。千葉大病院では、薬剤部で薬剤師がBSの情報を整理して、医師を含むWGで討論し、最終的に病院の執行部会で承認-というプロセスを採用。
フィルグラスチム75μgについては、先行品とBSの併採用で問題がなかったため、BSのみに完全に切り替えた。造血幹細胞移植時にドナーに使用する同300μgについては、「骨髄移植のガイドラインの変更」などを受けて、BSへの切り替えを行った。一方、インフリキシマブ100mgについては、適応が広いことや、複数の診療科で使用していることなどを要因に切り替えが進んでいないという。
浜松医大病院では、薬剤部が適応症に基づく使用フローチャートを作成し、各患者におけるBSおよび先行バイオ医薬品の選択について各診療科、処方医師が判断するというプロセスを採用。17年度のインフリキシマブ投与患者は年間95人だったが、BSに適応があり、BSを使用可能な患者92人のうち、実際使用した患者は9人にとどまった。
一方、リツキシマブについては、18年3月~6月の4カ月の投与患者は39人だったが、BSに適応があり、BSを使用可能な患者38人のうち、38人全員がBSを使用した。米澤氏は、インフリキシマブBSについて「高額療養費制度で患者負担に差がないか、下手したら逆転してしまうということが我々の試算でも出ている。患者に年収を聞けるわけでもない」とする一方、リツキシマブBSについて「エタネルセプトBSもそうだが、患者負担に逆転が起こらず、使った方がいいのではないかというものに関しては、積極的に診療科と相談して使っていくのが良いと思う」と述べた。
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2.定期接種審議の短縮を求める
-予防接種推進専門協議会:岩田敏委員長-
予防接種にかかわる17学会が参加する予防接種推進専門協議会の岩田敏委員長(国がん中央病院感染症部長)は10月30日、米国製薬協(PhRMA)主催のプレスセミナーで、ワクチンの定期接種審議の長期化を問題視、解消を求めた。13年4月に予防接種法が改正されて以降、国内でワクチンが次々と承認され、海外とのワクチンギャップは解消されてきている。一方、国内で承認されたワクチンが定期接種化するまでの審議は長期化している。おたふくかぜワクチンは審議開始から5年、不活化ポリオワクチンの5回目接種も5年、ロタウイルスワクチンは6年が経過したが、現在も審議中だ。
岩田委員長は「定期接種の審議にも時間がかかる。決まった後の財源確保も厚労省に直接の権限がない。仕組みが今一つうまくいかない」と指摘。その上で(1)定期接種化に必要な要件の明確化 (2)定期接種化のタイムラインの明確化 (3)ワクチン開発および定期接種化に必要な疫学情報の整備-が必要だとした。
さらには、「はじめから内閣府にまとめ役を置いて厚労省、経産省、総務省が一緒に議論して定期接種化やワクチン政策について考えてほしい。そうするともう少しスムーズにいくのではないか」と提案した。案では、国の危機管理および社会保障・安全保障の観点から予防接種政策に関する審議会を内閣府に設置する。その下に専門家による疾患別ワーキンググループを設置し政策案を策定する。厚労省、財務省、総務省は内閣府と連携し政策を実行する。
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3.先駆け遺伝子治療薬「単回投与で治療の土俵を変える」
-ノバルティスバイオメディカル研究所:リカルド・ドルメッチ-
ノバルティスバイオメディカル研究所(NIBR)の中枢神経領域グローバル責任者であるリカルド・ドルメッチ氏は10月23日、都内で行われたノバルティスファーマの記者会見ノバルティス・イノベーション・アップデート2018で、脊髄性筋萎縮症(SMA)を対象とした遺伝子治療薬AVXS-101について「単回治療でこれまでの治療の土俵を変えると思う。早い段階で投与されれば、患者の人生が大きく変わる。これまでになかったような可能性をもたらすと思う」と語った。
ノバルティスは18年4月に87億ドルで米国アベクシス社を買収し、AVXS-101を獲得。米国では画期的治療薬、欧州ではPRIME、日本では18年3月に再生医療等製品の先駆け審査指定制度の対象品目に指定されている。11月5日のノバルティス社のR&D説明会では国内承認申請を行ったことが発表され19年上期に承認される可能性がある。
同剤は患者にSMN遺伝子を導入することで体内でSMNタンパク質を産生させ、神経および骨格筋の機能を改善する。アデノ随伴ウイルスを使って遺伝子を導入する遺伝子治療薬。バイオジェンのSMA治療薬スピンラザ(ヌシネルセン)とは異なる作用機序だ。ドルメッチ氏は「脊髄性筋萎縮症とそのほか単一遺伝子によって制御される遺伝性疾患の治療は非常に重要にしている疾患領域だ。遺伝子治療はこれからも取り組む。レット症候群を含めて研究を続けている」と話した。
NIBRのオンコロジー領域グローバル責任者のジェフリー・エンゲルマン氏はCD19を標的としたCAR-T細胞療法に加え、CD3を標的とした二重特異性抗体(CD3-engaging bispecifics)を紹介。二重特異性抗体の片方の手でT細胞をつかみ、もう片方で腫瘍標的細胞をつかみ、T細胞を利用してがん細胞を死亡させる。エンゲルマン氏はがん領域の研究開発方針について「作用機序が異なるものを複数組み合わせることで、治療効果が高まる」と強調。ノバルティスにある分子標的治療薬、がん免疫療法、アポトーシス(細胞死)促進、バイオセラピューティック、エピジェネティクスなど複数のツールを使用して「1人の患者にどういうコンビネーションで使えば大きく奏功するのかというのを見いだしていきたい」と話した。
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4.ガザイバのPFSの長さ「患者に安心を与える」
-国際医療福祉大学三田病院:畠清彦副院長-
国際医療福祉大学三田病院の畠清彦副院長は11月7日、中外製薬主催の製品説明会で7月にCD20陽性の濾胞性リンパ腫の適応で国内承認を取得した抗CD20抗体ガザイバ(オビヌツズマブ)について「この疾患がおとなしい病気であると言っても再発する可能性がある。大事なことは無増悪生存期間(PFS)が長いと心配する回数が減る。したがって無増悪生存期間が長ければ長いほど、全生存期間が良ければ良いほど、良い治療ということで患者に安心を与えると思う」と同剤の特長をまとめた。
講演では、未治療の濾胞性リンパ腫の患者を対象とした国際第3相GALLIUM試験においてガザイバと化学療法の併用は標準治療であるリツキシマブと化学療法の併用に比べ主要評価項目の無増悪生存期間で統計学的に有意な延長を示したことなどを紹介。安全性ではリツキシマブと化学療法の併用に比べインフュージョンリアクションや感染症などが多く発現するため副作用マネジメントに留意する必要があるとした。
ガザイバはリツキシマブの後継品という位置付け。ただし、リツキシマブがCD20陽性のB細胞性非ホジキンリンパ腫の適応を取得しているのに対し、ガザイバはCD20陽性の濾胞性リンパ腫と適応の範囲が狭い。濾胞性リンパ腫においてはリツキシマブからガザイバへと「いずれは100%入れ替わる。スピードは施設によって違うが1~2年の間に変わっていく」(畠副院長)とした。
濾胞性リンパ腫は年単位で進行する低悪性度の非ホジキンリンパ腫。50歳代半ばから60歳代に多く発症する。畠副院長によると国内では年間4500人の初発の濾胞性リンパ腫の患者がいると推測され、薬物治療が必要な患者はそのうち4000人という。初発の濾胞性リンパ腫に関しては進行期の高腫瘍量の患者に対してリツキシマブ(R)を中心としたR-CHOP療法、R-CVP療法、BR療法が行われている。この位置にガザイバ(G)を中心としたG-CHOP療法、G-CVP療法、BG療法が入る。