■セミナー便り
1.キムリアの登場は大きな進歩だが夢の治療法ではない-北海道大学大学院医学研究院:豊嶋崇徳教授-
■開発品説明会
1.再生細胞医薬品SB623、外傷性脳損傷で「著明な有効性」-サンバイオ:金子健彦開発部長-
■セミナー便り
1.経口爪白癬治療薬ネイリン「12週間投与で治療可能」-埼玉医科大学皮膚科:常深祐一郎教授-
■行政トピックス
1.中医協総会 4月24日 支払側、生活習慣病の継続治療にオンライン診療有効活用を
■セミナー便り
1.キムリアの登場は大きな進歩だが夢の治療法ではない
-北海道大学大学院医学研究院:豊嶋崇徳教授-
国内初のキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)療法として、再発/難治性のCD19陽性のB細胞性急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)および再発/難治性のCD19陽性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)を適応症にキムリアが3月26日に承認された。これを受けて、ノバルティスファーマはキムリアの有効性・安全性を解説するメディアセミナーを開催した。
がん研究振興財団の2018年の部位別予測がん罹患数によると、国内の悪性リンパ腫患者は3万2400人、白血病患者は1万4100人で、特に15歳以下の子供が発症するがんのおよそ半分は悪性リンパ腫および白血病の血液由来がんで占められている。
キムリアの適応症の1つであるDLBCLは悪性リンパ腫の中で約30~40%を占める最も頻度が高いタイプ。患者の約半数は標準化学療法(R-CHOP)で治癒するが、半数は再発・難治患者となり、自家造血幹細胞移植の適応外や無効・再発患者は第二選択の救援化学療法を受けることになるが、救援化学療法の1年後の生存確率は25%程度(SCHLAR-1試験)とされている。セミナーに登壇した北海道大学大学院医学研究院の豊嶋崇徳教授は、キムリアは救援化学療法が無効の患者が対象となり、国際共同治験の結果では、治療後12カ月後の生存確率は約50%となっているとしたうえで、他に手段のない患者を救える可能性のあるいままでなかった治療薬であり、「100%治るわけではないが大きな進歩ではある。しかし、夢の治療法ではない」とし、安易な期待だけを煽る情報発信にならないよう注意を促した。
また、「治療を受けに来て、リンパ球を採取する際に、いままでの治療でリンパ球がなくなっている場合もある。なんとか採取できても、細胞の状態が悪くて、うまくいかない場合もある。また、工場から(改変細胞が)病院に帰ってくるまでに通常6週間。それまでに患者の病状が悪化することもある。そして、激しい副作用も起こる」として、実際は患者の状態が悪い、病状の進行が速いことから、キムリア治療を受けられる・治療に耐えられる適応患者は一部との見方を示した。
さらに、日本ではCAR-T治療できない病院で治療している対象患者がほとんどで、医師や患者にこの治療法の知識がほとんどないとし、「日本中に啓蒙が必要」とする。
豊嶋教授が、過度な期待を抱かせる情報の伝わり方がないよう釘を刺す背景には、リンパ腫・白血病患者の治療における特異性Spiritual Pain(魂の痛み)がある。「最も治るがん。最初は頑張ろうとする。しかし、約半数は治るわけではない。ホスピスへ移行する患者の気持ちの切り替えは大変でSpiritual Painを発している。(キムリアの)適用となる患者は、この状態に近い人が多い。安易にオールマイティの治療法だというと悲劇が起きかねない」とし、専門医による慎重・的確な判断が必要となってくるとの考えを示した。
もう一つの適応症である小児急性リンパ性白血病(ALL)は子供の血液由来のがんの4分の3を占め、その8割がB-ALLとされている。小児および若年成人のB-ALLを対象としたキムリアの第2相国際共同治験(ELIANA試験、11カ国25施設)に参画した京都大学医学部附属病院小児科の平松英文講師は、日本での登録患者8症例(5歳~24歳)について解説。8例中、輸中前脱落が2例(投与待機中の死亡例1例、細胞の製品化不適格1例)で、輸注した6例中、4例で寛解を達成(完全寛解3、部分寛解1)となった。全ての投与患者にグレード3/4有害事象が認められ、6例中5例で重症サイトカイン放出症候群(Gr2件、Gr4が3件)を発症したが、集中治療室での治療のもと、全例治療に反応したと紹介。「日本人でも高い奏効率を示し、奏効患者は微小残存病変陰性という深い寛解を得ることができた。しかし、副作用のマネージメントが非常に重要となる」と語った。
製造プロセスの短縮に向け製造キャパ拡大に着手
セミナーではノバルティスファーマのオンコロジージャパンプレジデントであるブライアン・グラッデン氏も質疑に応じ、国内での治療実施施設については「発売当初は2~3施設を想定している」とし、発売時に施設名を開示することを明らかにした。さらに、実施認定施設については、「細胞の採取、細胞の調整や凍結、サイトカイン放出症候群や神経毒性など重篤な副作用管理が確実に行われるようにしなければならない」とし、人材や施設に対するトレーニングをしたうえで、徐々に実施施設を増やしていく方針を示した。
また、患者のリンパ球採取から投与まで最短でも5~6週間程度かかることについて、製造施設が米国ニュージャージー州にあり、細胞の輸送に時間がかかること、また、製造施設のキャパシティに限界があることを理由に挙げた上で、製造プロセスの短縮については、「19年第3四半期までには、米国の製造キャパを現状の2倍まで拡大する予定でFDAからの認可を得ている」とした。また、フランス、ドイツ、日本では治験用製造施設の稼働が始まっているほか(ドイツでは欧州向けの商業用生産施設も兼備)スイス、中国でも治験用製造施設が稼働する予定である。
また、製造面においては、24時間の管理体制下で増殖過程における異変細胞の除去などは専門家による手作業で行われているとも言われる中、グラッデン氏は「労働集約型のプロセスが多い。自動化を考えないといけない」との課題認識を示した。
日本での発売に当たり、同社は、現状、キムリアでの治療対象となる国内患者数はピーク時で年間250人と見込んでおり、その収載薬価に注目が集まっている。米国でノバルティスは1回の治療あたり47万5000ドルと設定。ただし、高額なことからメディケア&メディケイドサービスセンター(CMS)と取引して、投与後1カ月して治療効果を示さなかった患者には薬価の請求はしない「パフォーマンス支払い方式」を導入している。日本での償還価格の在り方についてグラッデン氏は「世界中どこでも通用する薬価制度はない。各国の医療システムに合わせないといけない」とし、日本の医療制度の中で薬価を決めていくべきとしたうえで、「成功報酬型は望んでいない」と語った。
また、治療費が高額になる点について、他の治療方法に比べ「単回治療であり、入院日数が減る」と解説。この点については、米国でも、再発した白血病患者の多くに施されている幹細胞移植手術費用(最高80万ドル)を比較例として挙げる説明もある。
なお、米国では、抗がん剤では承認された適応症ごとに薬価設定がされるケースもあり、キムリアについても、適応症ごとに薬価が変わる可能性がある。日本においても、今後の議論を呼びそうである。
■開発品説明会
1.再生細胞医薬品SB623、外傷性脳損傷で「著明な有効性」
-サンバイオ:金子健彦開発部長-
サンバイオは4月19日、再生細胞医薬品SB623の外傷性脳損傷(中等度~重症)を対象とした日米グローバル第2相STEMTRA試験結果の詳細に関するアナリスト・投資家向け説明会を開催した。金子健彦開発部長は「著明な有効性ということに該当して厚労省から先駆け審査指定が出た」と語った。
STEMTRA 試験は主要評価項目の24 週目のFMMスコア(Fugl-Meyer Motor Scale、100点満点)においてSB623投与群が8.7点改善、プラセボ投与群が2.4点改善し、SB623はプラセボに比べ統計学的に有意な改善を示した(P=0.0444)。ダミアン・ベイツCMO(チーフ・メディカル・オフィサー)によると、FMMスコアのベースラインは45~50点で、ベースラインからの変化量は「投与開始後早期の段階からプラセボと差が付き始め、時間がたってもその差は縮まらない」。加えて、「外傷性脳損傷を受傷してから6~8年経過した患者も多かったが、それでも効果があった。結果が予想外ということで好意的に受け入れられた」。
ただ、試験ではSB623の250万細胞投与群、500万細胞投与群、1000万細胞投与群があり、主要評価項目において500万細胞投与群が最も良い成績を示した。質疑応答では、投与量と有効性の関係について追加の試験が必要になるかと問われ、金子開発部長が「全部を合わせたSB623群と対照群で有意差が付くかどうか見るデザインだ。投与量の話は承認するかしないかの判断の先の話だと思う。当局との交渉の上でどうかと言えば先駆け指定で答えは出ているのかなと思う」とその可能性を否定した。実臨床における投与量に関しては現在、検討中という。
SB623は、4月8日付で厚労省から「外傷性脳損傷(中等度~重症)における運動障害の改善」の適応で再生医療等製品の先駆け審査指定制度の対象品目に指定されており、同社は20年1月期中に条件期限付き早期承認申請を行う。
■セミナー便り
1.経口爪白癬治療薬ネイリン「12週間投与で治療可能」
-埼玉医科大学皮膚科:常深祐一郎教授-
埼玉医科大学皮膚科の常深祐一郎教授は4月19日、佐藤製薬とエーザイが共催した経口爪白癬治療薬ネイリンカプセル(一般名ホスラブコナゾール)に関するメディア向けセミナーで同剤の特長に関し用法・用量が「1日1回1カプセルを12週間投与」と設定されていることから、「飲み方が簡単で短期投与だ」と述べた。
ネイリンはエーザイが創製し、佐藤製薬が爪白癬の適応で18年1月に承認を取得し同年7月に発売した。現在、日本だけで承認されている。国内第3相試験において、主要評価項目の投与開始48週後における完全治癒率(被験爪の爪甲混濁部の消失かつ直接鏡検における皮膚糸状菌が陰性)はホスラブコナゾール群59.4%、プラセボ群5.8%で、プラセボに比べ統計学的に有意差を示した。安全性において、重篤な肝障害や血液障害、薬物相互作用などにより爪白癬の全身療法の既存薬(テルビナフィン、イトラコナゾール)が使用できない患者に対して使用可能であり、新しい治療選択肢として臨床的に意義があるとされている。
■行政トピックス
1.中医協総会 4月24日
支払側、生活習慣病の継続治療にオンライン診療有効活用を
厚労省は4月24日の中医協総会で、青年期~中年期(20~30代、40~60代)の論点として「生活習慣病に対する早期かつ継続的な管理のために、どのような取り組みを進めるべきか」と提起し、次期診療報酬改定に向けて議論を求めた。
厚労省が提示した「世代ごとの気になる疾病の違い」(H28国民生活基礎調査・健康・通院者数から各年代の頻度の高い最も気になる疾病をリスト化)によると、40歳代前半までは「うつ病やその他のこころの病気」、40歳代後半からは高血圧症や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病が上位を占めている。
疾病を抱えながら働き続けられるようにするための環境整備が重要な課題となるが、同省が提示した「離職経験がある者の離職理由」(第13回中高年縦断調査)によると、「定年のため」や「契約期間が満了したから」の次に、「健康が優れなかったから」が多い。
吉森俊和委員(協会けんぽ理事)は治療と仕事の両立の面から「例えばオンライン診療の在り方など、治療を継続しながら働き続けられるような論点について議論を深めるべき」との意見を述べた。
宮近清文委員(経団連部会長代理)も「最も気になる病気として50歳以降では生活習慣病がトップ3を占めているのは、この世代に至る以前の働き盛りの時期に必要な治療を受けていないことがあり、働き盛りの現役世代にとって治療や相談がより容易となる環境をつくっていく必要がある」と述べ、オンライン診療やオンライン服薬指導といった仕組みをさらに整備していく必要性を訴えた。